福岡高等裁判所那覇支部 平成7年(ネ)26号 判決 1998年5月22日
一審原告
昭屋明
外九〇五名
右一審原告ら訴訟代理人弁護士
池宮城紀夫
照屋寛徳
永吉盛元
島袋勝也
鈴木宣幸
木村清志
松井忠義
佐井孝和
福本富男
横内勝次
森下弘
岩田研二郎
國府泰道
辻口信良
西村健
村本武志
野村克則
森信雄
福森亮二
丹羽雅雄
神谷誠人
青木佳史
秋田仁志
秋田真志
右一審原告ら訴訟復代理人弁護士
榎本信行
佐藤和利
西晃
松永和宏
西太郎
岡部玲子
一審被告
国
右代表者法務大臣
下稲葉耕吉
右指定代理人
今村隆
外三二名
(以下、平成六年(ネ)第一六号事件控訴人、同年(ネ)第一七号事件被控訴人〔訴訟承継人を含む。〕を「一審原告」といい、このうち一審原告番号一から六〇〇までの一審原告〔二七五番は欠番〕を指すときは「第一次訴訟一審原告」、一審原告番号六〇一から九〇六までの一審原告を指すときは「第二次訴訟一審原告」、一審原告番号九〇七の一審原告を指すときは「第三次訴訟一審原告」という。また、同年(ネ)第一六号事件被控訴人、同年(ネ)第一七号事件控訴人を「一審被告」という。)
主文
一 原判決主文第一項、第三項及び第四項を次のとおり変更する。
1 一審原告らの平成一〇年一月一七日以降に生ずるとする将来の損害賠償請求に係る訴えをいずれも却下する。
2 一審被告は、本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」中の「一審原告氏名」欄記載の各一審原告(訴訟承継人を含む。)に対し、次の(一)ないし(三)の金員をそれぞれ支払え。
(一) 同表中の各一審原告に対応する「損害賠償額(合計)」欄記載の金員
(二) 同「A期間賠償額」欄記載の金員に対する同表中の一審原告らのうち、第一次訴訟一審原告らについては昭和五七年三月一二日から、第二次訴訟一審原告らについては昭和五八年三月一五日から、第三次訴訟一審原告については昭和六一年一〇月一九日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員
(三) 同「B期間賠償額」欄記載の金員に対する平成一〇年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員
3 右一審原告らのその余の平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害賠償請求をいずれも棄却する。
二 原判決中一審原告金城喬保の損害賠償請求に係る一審被告敗訴部分を取り消す。
一審原告金城喬保の平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害賠償請求を棄却する。
三1 一審原告らのうち、本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」中の一審原告ら以外のその余の一審原告ら並びに一審原告照屋たつ子(亡照屋千代訴訟承継人)、同國場信子(亡國場永德訴訟承継人)及び松田カメ(同番号六二五)の平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害賠償請求に係る控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告らの航空機の離着陸等の差止及び航空機騒音の到達の差止請求に係る控訴をいずれも棄却する。
四 平成六年(ネ)第一六号事件控訴人兼同年(ネ)第一七号事件被控訴人である一審原告ら(本判決添付の別紙第一「当事者目録」記載の各一審原告に対応する備考欄に「Ⅰ」と表示した一審原告ら)のうち、一審原告照屋たつ子(亡照屋千代訴訟承継人)、同國場信子(亡國場永德訴訟承継人、同金城喬保及び同松田カメ(同番号六二五)以外のその余の一審原告らに対する一審被告の控訴をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、民訴法二六〇条二項の申立てに関するものを除き、第一、二審を通じ、第一項の2記載の一審原告ら並びに一審原告牧野信子(亡牧野佐市訴訟承継人)、同喜屋武実(亡喜屋武忠保訴訟承継人)、同宮平ウシ(亡宮平謙牛訴訟承継人)、同大村文雄、同安田喜美藏、同伊禮信子(亡伊禮新一郎訴訟承継人)、同與儀勇(亡與儀ヨシ訴訟承継人)、同仲宗根久子(亡仲宗根朝次訴訟承継人)、同田崎和子(亡德元千恵子訴訟承継人)、同仲宗根正子(亡仲宗根林次訴訟承継人)及び同喜屋武光子(亡喜屋武勤訴訟承継人)と一審被告との間に生じたものはこれを五分し、その四を同一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とし、その余の一審原告らと一審被告との間に生じたものはすべて同一審原告らの負担とする。
六 この判決の第一項の2は、本判決が一審被告に送達された日から一四日を経過したときは、仮に執行することができる。
七 一審被告の民訴法二六〇条二項による申立てに基づき、
1 一審被告に対し、一審原告大村文雄は金七万七五三四円、同安田喜美藏は金七万七五三四円、同金城喬保は金六一万八二七二円、同山里盛夫は金二万八一七六円、同松田カメ(同番号六二五)は金四九万三二七七円及び右各金員に対するいずれも平成六年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審被告の一審原告大村文雄、同安田喜美藏、同山里盛夫及び同松田カメ(同番号六二五)に対するその余の申立てを棄却する。
3 右申立てに関する訴訟費用中、一審原告大村文雄と一審被告及び一審原告安田喜美藏と一審被告との間にそれぞれ生じたものは、いずれもこれを一〇〇分し、その三を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とし、一審原告金城喬保と一審被告との間に生じたものは、同一審原告の負担とし、一審原告山里盛夫と一審被告との間に生じたものは、これを一〇〇分し、その一を同一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とし、一審原告松田カメ(同番号六二五)と一審被告との間に生じたものは、これを六分し、その一を同一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。
4 右1は、本判決が一審原告大村文雄、同安田喜美藏、同金城喬保、同山里盛夫及び同松田カメ(同番号六二五)に送達された日から一四日を経過したときは、仮に執行することができる。
事実及び理由
本判決で用いる騒音の単位の意味内容及び本文中に特記するもの以外の条約、法律等の名称の略語は、原判決「(用語解説)」及び「(略語表)」(原判決四頁二行目から一〇頁末行まで)の記載と同じであるから、これをここに引用する。
第一章 当事者の求める裁判
第一 一審原告らの控訴の趣旨(平成六年(ネ)第一六号事件)
一 原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告は、一審原告らのために、アメリカ合衆国軍隊をして、
(一) 嘉手納飛行場において、毎日午後七時から翌日午前七時までの間、一切の航空機を離着陸させてはならず、かつ、一切の航空機のエンジンを作動させてはならない。
(二) 嘉手納飛行場の使用により、毎日午前七時から午後七時までの間、一審原告らの居住地内に六五ホンを超える一切の航空機騒音を到達させてはならない。
2 一審被告は、一審原告らに対し、次の金員を支払え。
(一) 各金一一五万円及びこれに対する第一次訴訟一審原告らについては昭和五七年三月一二日から、第二次訴訟一審原告らについては昭和五八年三月一五日から、第三次訴訟一審原告については昭和六一年一〇月一九日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員
(二) 第一次訴訟一審原告らについては昭和五七年三月一二日から、第二次訴訟一審原告らについては昭和五八年三月一五日から、第三次訴訟一審原告については昭和六一年一〇月一九日から、いずれも平成一〇年一月一六日まで一か月金三万三〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一月一七日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員
(三) 平成一〇年一月一七日から、右第1項(一)及び(二)の履行済みまで、当該月末限り一か月金三万三〇〇〇円及びこれに対する当該月の翌月一日から支払済みまで年五分の割合による金員
(なお、一審原告らの原審においては将来の損害賠償請求であった部分のうち、原審口頭弁論終結の日の翌日である平成四年一二月四日から当審口頭弁論終結の日である平成一〇年一月一六日までの分は、その請求の趣旨から当然に現在の請求となった。また、遅延損害金については一部、請求が減縮された。)
二 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
三 第一項の2につき仮執行宣言
第二 控訴の趣旨に対する一審被告の答弁
一 一審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は一審原告らの負担とする。
三 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第三 一審被告の控訴の趣旨(平成六年(ネ)第一七号事件)
一 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
二 一審原告らの請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。
第四 控訴の趣旨に対する一審原告ら(平成六年(ネ)第一七号事件被控訴人)の答弁
一審被告の本件控訴をいずれも棄却する。
第五 一審被告の民訴法二六〇条二項(平成八年法律第一〇九号による改正前の民訴法〔以下、旧民訴法という。〕一九八条二項)による申立て
一 本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の「被控訴人(一審原告)氏名」欄記載の各一審原告らは、一審被告に対し、それぞれ同欄に対応する「総合計」欄記載の各金員及びこれに対する平成六年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 仮執行宣言
第六 右申立てに対する右一審原告らの答弁
一審被告の右申立てをいずれも棄却する。
第二章 事案の概要
第一 事案の要旨
事案の要旨は、原判決一四頁末行の次に改行して次のとおり付加するほかは、原判決記載(一四頁三行目から末行まで)のとおりであるから、これをここに引用する。
「 原審は、一審原告らの本件差止請求を棄却し、一審原告らの本件損害賠償請求のうち、将来の損害賠償を求める部分を却下し、過去の損害賠償請求のうち、平成六年(ネ)第一六号事件控訴人兼同年(ネ)第一七号事件被控訴人である一審原告ら(本判決添付の別紙第一「当事者目録」記載の各一審原告に対応する備考欄に「Ⅰ」と表示した一審原告ら)の各請求を一部認容し、その余の一審原告ら(本判決添付の別紙第一「当事者目録」記載の各一審原告に対応する備考欄に「Ⅱ」と表示した一審原告ら)の請求を棄却した。
一審原告らは、原審が本件差止請求を棄却したこと、一審原告らの健康被害を認めず、W値八〇未満の地域に居住し又は居住していた一審原告らについて被害が受忍限度内であると判断したこと、W値八〇以上の地域に居住し又は居住していた一審原告らについて認められた損害賠償額は、不当に低額であること、本件においては、地縁、血縁関係の繋がりが濃く、居住できる場所が限られていること等沖縄の特殊性があるから、危険への接近の法理を適用すべきではないにもかかわらず、これを適用し、損害賠償額を減額したこと等を不服として控訴した(なお、原判決添付の別紙第一「当事者目録」記載の原告番号二七五の一審原告は、当審において訴えを取下げた。)。
また、一審被告は、原審には、騒音や振動等の侵害行為及び被害の有無、程度、住宅防音工事等の一審被告の周辺対策等についての事実認定を誤り、さらには、本件飛行場の公共性、環境基準等についての評価、判断を誤ったことなどにより、W値八〇以上の地域に居住し又は居住していた一審原告らについて被害が受忍限度を超えており、本件飛行場の設置、管理に違法性があると判断した過誤があること、また、沖縄のいわゆる本土復帰である昭和四七年五月一五日以降に損害賠償の対象となる区域外から対象区域内に移動した者については、被害の容認があったというべきであるから、危険への接近の法理により免責が認められるべきであり、また、対象区域内においてより騒音レベルの高い区域に移動した者のみならず、同程度の区域内で移動した者についても、危険への接近の法理あるいは過失相殺の法理を類推して減額をすべきであること等を不服の理由として控訴した。」
第二 主要な争点の前提となる事実
一 本件飛行場の概要
本件飛行場の概要(本件飛行場の現況、本件飛行場の設置、管理の経緯、本件飛行場の基地機能の変遷)は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決記載のとおり(原判決一五頁三行目から二一頁九行目まで)であるから、これをここに引用する。
1 一五頁五行目の「別紙第三」を「本判決添付の別紙第五」と、六行目の「約一九九八万平方メートル」を「約一九九五万平方メートル」と各改める。
2 一六頁二行目の「乙一五六」を「乙二〇九」と、三行目の「乙一三五」を「乙二〇八」と各改める。
3 一八頁末行の「一八七、」を削り、一九頁初行の「乙四、」の次に「一八七、」を加える。
4 二一頁四行目から五行目にかけての「E―三A空中早期警戒管制機」を「E―三B空中早期警戒管制機」と、九行目の「一九一、」の次に「三四七、四〇〇、」を加える。
二 一審原告らの居住関係
一審原告らの居住関係(居住地、居住開始・終了時期、居住地に係る生活環境整備法上の区域指定におけるWECPNL値等)は、本判決添付の別紙第六「一審原告ら居住地等一覧表」記載のとおりであり(原判決添付の別紙第四「原告ら居住地等一覧表」記載の事実のうち、同添付の別紙第五「原告ら居住地等一覧表に対する認否」において不知ないし否認とされた事実以外の事実は争いがなく、右争いのある事実のほか、右記載事実の訂正及び原判決後の移動に関する事実は乙二三四等により認める。)、これについては、後記第三章の第一〇「一審被告の責任及び損害賠償額の算定」三2で再度述べる。なお、一審原告らの居住地の位置関係は、「原告らの居住地所在図」(乙六の1、2)のとおりである(但し、右図面作成後の移動は記載されていない。)。
三 一審原告らの承継関係
一審原告らのうち、本判決添付の別紙第二「承継関係一覧表」記載の各被承継人らは、同表「死亡年月日」欄記載の各年月日にそれぞれ死亡し、同表「承継人」欄記載の各承継人が、相続人間の遺産分割協議によりそれぞれ被承継人の権利を承継した(右各被承継人らが右各死亡年月日に死亡したことは争いがなく、その余の事実は弁論の全趣旨により認める。)。
第三 当事者の主張の要旨
当事者双方の主張の要旨は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「第三 当事者の主張の要旨」記載のとおり(原判決二二頁九行目から一四九頁一一行目まで)であるから、これをここに引用する。
一 原判決三〇頁一〇行目の「家屋上空を」を「家屋上空に」と、三三頁二行目の「本件飛行場に」を「本件飛行場で」と、三五頁二行目の「ストレス作因」を「これがストレス発生の原因となり、またストレスを蓄積させて」と、四三頁四行目の「機序」を「内容又は実体」と、四七頁七行目の「上空を」を「上空に」と各改め、五四頁一〇行目の「公害対策基本法」の次に「(平成五年一月に廃止された。以下「旧公害対策基本法」ともいう。)」を加え、七三頁五行目の「大阪空港最高裁判決同旨」を「最高裁判所昭和五六年一二月一六日大法廷判決同旨〔民集三五巻一〇号一三六九頁〕、以下「大阪空港最高裁判決」ともいう。」と、七九頁二行目から三行目にかけての「本件口頭弁論終結の日の翌日である平成四年一二月四日」を「当審口頭弁論終結の日の翌日である平成一〇年一月一七日」と、一〇行目から一一行目にかけての「民事訴訟法二二六条」を「民事訴訟法一三五条(旧民事訴訟法二二六条、以下同じ。)と、一一行目の「予め請求をなす必要がある場合」を「あらかじめその請求をする必要がある場合」と、八〇頁四行目、五行目及び六行目の各「本件口頭弁論終結の日」をいずれも「当審口頭弁論終結の日」と、九一頁一一行目から九二頁初行の「う。)」までを「大阪空港最高裁判決」と各改め、九七頁二行目の「イミッシオン」の前に「又は」を、九八頁五行目の「公害対策基本法」の前に「旧」を各加え、一〇七頁七行目の「ようす」を「様子」と、一四一頁一一行目の「別紙第六「原告別騒音防止対策等補助事業実績表(1総括表、2個別表)」」を「本判決添付の別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(1総括表、2個別表)」」と、一四二頁七行目の「運用上の必要のために必要な場合」を「運用上必要な場合」と、一四三頁九行目から一〇行目にかけて及び一四四頁五行目の各「民事訴訟法二二六条」をいずれも「民事訴訟法一三五条」と各改める。
二 一審原告らの当審における主張の要旨
一審原告らの当審における主張の要旨は、別冊「一審原告ら最終準備書面」記載のとおりである。
三 一審被告の当審における主張の要旨
一審被告の当審における主張の要旨は、別冊「一審被告最終準備書面」記載のとおりである。
四 一審被告の民訴法二六〇条二項(旧民訴法一九八条二項)の主張
本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の「被控訴人(一審原告)氏名」欄記載の各一審原告らは、一審被告に対し、平成六年二月二四日、仮執行宣言付き原判決に基づき、強制執行をし、同表記載の各一審原告らに対応する「仮執行認容額」欄及び「執行手数料」欄記載の各金員の合計である「総合計」欄記載の金員を取得した。
よって、一審被告は、原判決中、右金額の支払を命ずる部分が変更される場合には、民訴法二六〇条二項(旧民訴法一九八条二項)に基づき、同表記載の各一審原告らに対し、右「総合計」欄記載の各金員及びこれに対する強制執行の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四 争点の概要
本件における争点の概要は、原判決「第四 争点の概要」に記載(原判決一五〇頁初行から一五一頁二行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。
第三章 争点についての判断
第一 差止請求について
一 一審被告は、本件差止請求は不適法であると主張するので、以下検討する。
1 一審被告は、一審原告らの本件差止請求は、実質的には本件飛行場の使用を全面的に禁止することにほかならないが、その実現のためには、米軍が本件飛行場を使用する根拠規定である安保条約及び地位協定を改変するしかなく、このような高度の政治性を有する問題を裁判所が判断するのは、統治行為ないし政治問題として許されないと主張する。
ところで、一審被告主張のような判断をする必要があるか否かは、一審原告らが差止請求権の根拠として主張する実体上の請求権の存否と密接に関係しているところ、一審原告らの本件差止請求権は、米軍が本件飛行場を使用することによって生じる航空機騒音等により人格権、環境権及び平和的生存権を侵害されたとして、右権利に基づき一審被告に対し侵害行為の差止めを求めるというのである。
しかしながら、そもそも右請求は、後述するとおり米軍の本件飛行場についての管理、運営の権限を制約し、その活動を制限することができない一審被告に対し、その支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものであって、実体上の請求権がなく主張自体失当というべきである。したがって、裁判所が本件差止請求の当否を判断することが安保条約及び地位協定に影響を及ぼすものではなく、また、その内容に踏み込んで判断する必要もないから、一審被告の統治行為ないし政治問題であるとの右主張について検討を要しない。
2 一審被告は、一審原告らの本件差止請求は、実質的には、アメリカ合衆国政府との交渉を一審被告に義務付ける行政上の義務付け訴訟ないし一審被告に対して同国政府との外交交渉をすべきことを求める行政上の給付訴訟にほかならず、民事訴訟としては不適法であると主張する。
本件差止請求は、前述したとおり人格権、環境権及び平和的生存権に基づき一審被告に対し不作為を求めるものであり、民事上の差止請求であるが、このような請求であっても、行政規制権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなる場合については、不適法であると解される。
ところで、本件飛行場の使用関係は、後述するとおりであって、一審被告において米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、米軍機の運航を規制しうることについては条約及び国内法令に特段の規定がなく、一審被告にはこれらの権限はないのであるから、このような本件飛行場の特殊な使用関係を考慮すると、本件差止請求が、行政規制権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含しているとは解せられないというべきであるから、その意味において本件差止請求が不適法であるとはいえない。
3 一審被告は、本件差止請求の趣旨は、いかなる不作為ないし作為を求めているのか明らかではないから、請求の特定に欠けると主張するが、このような抽象的不作為命令を求める訴えも、請求の特定に欠けるといえないことは、最高裁判所の判断するところであり(最高裁昭和六三年(オ)第六一一号、平成五年二月二五日第一小法廷判決、裁判集民事一六七号下三五九頁)、当裁判所も右と同意見である。
二 そこで、さらに本件差止請求の当否について判断する。
本件飛行場は、昭和四七年五月一五日、沖縄県のいわゆる本土復帰に伴い、安保条約六条の「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」との規定及び地位協定二条一項(a)の「合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。」との規定に基づき、アメリカ合衆国に提供された施設及び区域である、そして、これらアメリカ合衆国に使用が許される施設等については、地位協定三条一項において、「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。」と定められている。
次に、航空法との関係をみるに、昭和二七年の航空法制定と同時に、米軍機とわが国の航空機との運航上の法的調整を図るため、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(昭和二七年法律第二三二号、以下、「航空特例法」という。)が制定され、米軍機の運航が前記提供目的の実現のために行われる場合には、その運航に関し航空法所定の事項について幾つかの適用除外事項(たとえば、航空機の運航に関する航空法第六章の規定のうち、運輸大臣の航空交通の指示(同法九六条)、飛行計画の承認(同法九七条)並びに到着の通知(同法九八条)を除くその余の事項等)が定められている。なお、右航空法及び航空特例法が沖縄県に適用されるようになったのは、同県がわが国に復帰した昭和四七年五月一五日以降である。
右のとおり、航空特例法により、米軍機の運航について航空法の適用除外が定められているが、航空交通管制については適用除外とされていない。したがって、我が国の領空を航行する米軍機は、すべてその飛行の承認(計器飛行方式による場合は承認、その他は通報)を運輸大臣から受けなければならず、米軍機は、運輸省航空局に事前に飛行計画を提出し、その承認を受けて初めて本件飛行場に離着陸できる。しかし、米軍機に対する航空交通管制をすべて運輸大臣の権限であるとすることは、米軍機の運航に支障を来すおそれがあることから、航空交通管制についての協調及び整合を図るため、地位協定六条一項に基づき、日米合同委員会での合意により、航空路管制業務(計器飛行方式により飛行する航空機及び特別管制空域を飛行する航空機に対する管制業務で高高度管制業務ともいう〔航空法施行規則一九九条一項一号〕。)は運輸大臣が所管し、その余の本件飛行場に関する管制業務は米軍が行うものとされ、本件飛行場内の離着陸管制、同飛行場の管制圏及び進入管制区内の航行については、米軍機のみならずわが国の民間航空機も含めてすべて米軍がこれを管制し、これから離脱し、又はこれに進入する場合には、運輸省の航空路管制と管制の引継ぎを行うものとされている(弁論の全趣旨)。
以上のとおり、本件飛行場については、アメリカ合衆国が専権的に管理、運営しており、一審被告は、これを管理、運営する権限を有しないというべきである。
ところで、一審原告らは、米軍機の運航等に伴う騒音、振動等による被害を主張して人格権、環境権及び平和的生存権に基づき、一審被告に対し、米軍機の離着陸等の差止めや米軍機の発する航空機騒音の一審原告ら居住地域への到達の差止めを請求しており、一審原告らに対する被害を直接に生じさせている者が一審被告ではなく米軍であることを主張の前提としているものと解される。
そして、一審原告らが一審被告に対し、右のような差止めを請求することができるためには、一審被告が米軍機の運航等を規制し、制限することのできる立場にあることを要するものと解されるところ、前述したとおり、本件飛行場に係る一審被告と米軍機との法律関係は条約に基づくものであるから、一審被告は、条約ないしこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り、米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限し得るものではなく、関係条約及び国内法令の右のような特段の定めはない。そうすると、一審原告らが米軍機の離着陸等の差止めを請求するのは、一審被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから、本件差止請求は、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当として棄却を免れない(最高裁昭和六二年(オ)第五八号、昭和六三年(オ)第六一一号、各平成五年二月二五日第一小法廷判決・前者につき民集四七巻二号六四三頁、後者につき前記のとおり)。
一審原告らは、安保条約及び地位協定は、米軍が民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護する目的で、公共への安全を配慮し(地位協定三条三項)、かつ国内法令を尊重した活動をする(同一六条)限りで日本が区域及び施設の設置・使用を許可することを定めているものであること、地位協定一八条五項(b)は米軍の違法行為については、日本が被害者のいかなる請求をも解決することができると規定していること、航空法が米軍機の飛行計画に対し運輸大臣の承認、不承認権限を規定していること等からすると、米軍が日本において違法な活動を行った場合には、日本は、主権国家として当然活動を制約、制限する権限を有していると主張する。
しかしながら、地位協定三条三項が「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払って行わなければならない。」と規定し、同一六条が「日本国において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。」と規定しているのは、わが国の法秩序を尊重擁護すべき一般的義務を定めたものにすぎず、また、同一八条五項(b)は、金銭的請求についての規定であると解されるのであって、航空法の規定をも含めこれらの規定をもってわが国が米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限し得る権限を定めたものと解することはできない。また、わが国が主権国家であることから、当然に米軍の右活動を制約、制限する権限を有していると解する根拠も見出し難いから、一審原告らの右主張は理由がなく採用できない。
第二 損害賠償に係る訴えの適法性、被侵害利益及び根拠法条について
一 損害賠償に係る訴えの適法性について
当裁判所も、本件損害賠償請求に係る訴えのうち、当審口頭弁論終結の日までに生じたとする損害賠償を求める部分の訴えの適法性について問題となる点は存せず、一審原告らが同一の金額による一律請求をしていることも不当とはいえないと判断するものであるが、その理由は、原判決一五五頁五行目及び一五六頁二行目の各「口頭弁論終結の日」の前にいずれも「当審」を加えるほかは、一五五頁五行目から一五六頁五行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
二 損害賠償請求の被侵害利益について
一審原告らが損害賠償請求の根拠として主張する人格権、環境権及び平和的生存権とその実体法上の権利等についての当裁判所の判断は、原判決一五六頁七行目から一六一頁二行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
三 損害賠償請求の根拠法条について
この点についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほかは、原判決一六一頁四行目から一六七頁五行目までと同じであるから、これをここに引用する。
1 一六三頁末行の「主張するが、」を「主張する。」と改め、同行の「原告らは、」から一六五頁三行目までを改行して次のとおり改める。
「 しかし、最高裁平成四年(オ)第一五〇三号、同七年七月七日第二小法廷判決(民集四九巻七号一八七〇頁)は、国賠法二条一項について、同項は、「危険責任の法理に基づき被害者の救済を図ることを目的として、国又は公共団体の責任発生の要件につき、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときと規定しているところ、回避可能性があったことが公の営造物の設置又は管理に瑕疵を認めるための積極的要件になるものではない。」と判示しており、回避可能性(及び予見可能性)は責任の発生要件ではなく、抗弁であることを明らかにしたものと解されるが、当裁判所も同意見であるところ、その趣旨は、民事特別法二条にも妥当するものというべきである。
したがって、一審原告らは、右①の要件を主張立証すれば足り、右②及び③についてはその可能性のないことが一審被告の抗弁になると解するのが相当である。そして、後に認定判断するとおり、本件飛行場に離着陸する航空機の発する騒音等により一審原告らの一部に受忍限度を超える被害が発生しているところ、後に認定する事実関係の下では、本件飛行場を管理する米軍においてその予見及び回避が不可能であったとは認められないというべきである。」
2 一六五頁八行目の「被告が設置、管理するものといえないから、」を「一審被告は本件飛行場の管理運営や米軍機の運航に関する権限を有しないから、一審被告が設置、管理するものとはいえず、」と改める。
3 一六五頁一〇行目から一六六頁初行までを次のとおり改める。
「 また、一審原告らは、一審被告が米軍に本件飛行場を提供し、その機能強化に協力したうえ、米軍の違法な騒音暴露を容認して、音源対策をほとんどしないなど有効な対策をとらないまま騒音公害を放置してきたから、本件に国賠法一条一項が適用されるべきであると主張する。
しかしながら、米軍に本件飛行場を提供し、その機能強化に協力したからといって、それが直ちに一審原告らに対する侵害行為となるとはいえず、また、一審被告が騒音被害に対し有効な対策をとらなかったという点についても、違法行為の内容が必ずしも明確であるとはいえないから、一審原告らの右主張によっては本件に右法条を適用して一審被告に対し損害賠償を請求することはできないというべきである。」
4 一六六頁五行目から六行目にかけての「前記の点の特定は」を「不法行為者(事柄の性質上、米軍機の飛行に関与した個人の特定までは必要がないと解される。)及び違法行為の特定の問題は」と改める。
第三 侵害行為
一 航空機騒音
本件飛行場周辺地域における航空機騒音の実態についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決一六七頁八行目から二四六頁二行目までと同じであるから、これをここに引用する。
1 一六八頁二行目の「本件飛行場に」を「本件飛行場において」と改め、一六九頁二行目の「本件」の次に「に現れた」を加え、七行目の「当裁判所の」を「原審及び当審における」と改める。
2 一七一頁九行目の「本件における」から一一行目末尾までを「本件における航空機騒音の傾向をできる限り明らかにすると同時に、一審原告らの居住する地域における騒音の程度は、前述したとおり生活環境整備法上の区域指定におけるW値によって推認するほかないが、右各騒音測定記録等により認められる測定値が右区域指定におけるW値と著しく乖離し、矛盾があるようであれば、右W値により騒音の程度を推認することは不合理ということになるから、そのような観点からも右騒音測定記録により認められる騒音の程度を検討することとする。」と改める。
3 一七六頁三行目の「嘉手町」を「嘉手納町」と改める。
4 一七七頁四行目の「(乙八六)。」の次に「なお、同図は、乙第八六号証(沖縄県、北谷町及び嘉手納町固定測定点位置図)に基づくものであるが、同号証では、北谷町役場は⑥、北谷町砂辺は①、旧嘉手納町役場は④、現嘉手納町役場は⑤である。」を加える。
5 一九四頁六行目の「さほど高いものではない。」を「他の測定地点ほどは高くない。」と改める。
6 一九五頁七行目の「昭和五三年以降」の次に「平成元年まで」を、一一行目の「九〇」の次に「、なお、平成二年以降のものについては、後記9のとおりである。」を各加える。
7 一九六頁三行目の「弁論の全職旨」を「弁論の全趣旨」と、一九八頁四行目の「値」を「間」と、一九九頁八行目の「八六」を「八五」と各改める。
8 二〇二頁三行目から二〇三頁八行目までを次のとおり改める。
「 次に、区域指定におけるW値七五以上八〇未満とされた地点である具志川市新赤道、恩納村塩屋、読谷村波平、同村伊良皆、同村大湾、沖縄市中央(昭和六三年度及び平成元年度)についてみるに、WECPNLのパワー平均値は、七〇未満のことが多いが、地点や年度によっては七〇を上回る場合もあり、特に恩納村塩屋では、測定がなされた昭和六三年及び平成元年の両年度とも約七七である。また、一日当たりの七〇デシベル(A)以上の騒音発生回数、騒音持続時間の平均値は、おおむね三〇回、一五分を下回り、二〇回以下、一〇分以下の場合も多い反面、地点や年度によっては三〇回を上回り、一五分を超える場合もある。したがって、これらの地点における騒音は、W値八〇以上とされた地点よりもさらに低いとはいえ、少なからざる騒音が発生しているといえる。
なお、以上に示した測定地点のうち常時測定地点である北谷町砂辺、石川市美原を除いた測定地点での測定は、一年につき一週間程度の短期間のものであり、測定結果の数値は、右常時測定地点に比べると年度毎のばらつきがやや多いように思われ、騒音調査の結果を検討するにあたってはその点を踏まえて考察すべきである。しかし、これらは、県により多数の地点について、ある程度長期間にわたり継続的に行われたものであるから、各地点の騒音のおおよその傾向を把握することはできるといえる。」
9 二〇六頁四行目及び五行目の各「当裁判所」をいずれも「原裁判所」と改め、四行目の「検証の結果による検討」の次に「(なお、当裁判所の検証の結果は、後記10のとおりである。)」を加える。
10 二〇六頁一一行目及び二二六頁五行目の各「同松田カメ」、二一〇頁三行目、四行目及び二一七頁初行から三行目にかけての各「原告松田カメ」、二一二頁七行目及び八行目の各「同原告」をいずれも「承継前一審原告松田カメ」と改める。
11 二一二頁七行目及び二二六頁三行目の各「当裁判所」をいずれも「原裁判所」と改める。
12 二三〇頁初行の「夜間」の次に「及び早朝」を加える。
13 二三二頁四行目の「しかし、」の次に「右消音装置によっても、離陸直前のエンジン調整音あるいは航空機誘導音を減音することはできず(証人大田長秀)、」を加える。
14 一三二頁七行目の次に改行して次のとおり加える。
「9 原判決で認定された年度以降の騒音測定記録の検討
(一) 嘉手納町役場の騒音測定記録(甲四一一)
(1) 騒音発生回数
一日当たり七〇デシベル(A)以上の騒音発生回数の年間平均値は、次のとおりである。
平成四年 六六回
平成五年 五五回
平成六年 六二回
平成七年 六〇回
このうち、早朝(〇時ないし七時)、深夜(二二時ないし二四時)の一日当たり騒音発生回数の年間平均値は、次のとおりである(上段は早朝の発生回数を、下段は深夜の発生回数を示す。)。
平成四年 四/二
平成五年 三/二
平成六年 五/二
平成七年 四/二
(2) 騒音持続時間
一日当たりの七〇デシベル(A)以上の騒音持続時間(騒音累積持続時間、単位は秒)の年間平均値は、次のとおりである。
平成四年 二四七六
平成五年 一九六五
平成六年 二三一七
平成七年 二一五〇
(3) 騒音のパワー平均値
七〇デシベル(A)以上の騒音の月間パワー平均値(デシベル(A))を各年ごとに平均したもの、すなわち各年ごとの騒音パワー平均値は、次のとおりである。
平成四年 83.6
平成五年 82.8
平成六年 83.4
平成七年 83.2
(4) 月間WECPNL値の年平均値
WECPNLの月間パワー平均値を各年ごとに平均したもの、すなわち各年ごとのWECPNLの平均値は、次のとおりである。
平成四年 77.8
平成五年 76.3
平成六年 78.2
平成七年 76.9
(二) 沖縄県による騒音測定記録(甲三四〇の1ないし8、三四七)
沖縄県による前記4(一)記載の各測定地点における平成二年度から平成五年度までのWECPNLのパワー平均値は、本判決添付の別紙第七「沖縄県の調査による嘉手納飛行場周辺の航空機騒音推移状況(一)」記載のとおりである。また、右各測定地点における平成二年度から平成五年度までの一日当たりの七〇デシベル(A)以上の騒音発生回数、深夜及び早朝の騒音発生回数、騒音累積持続時間の各平均値は、本判決添付の別紙第八「沖縄県の調査による嘉手納飛行場周辺の航空機騒音推移状況(二)」記載のとおりである。
(三) 右各測定地点の騒音量の推移
(1) 嘉手納町役場での平成四年から平成七年までの右騒音測定記録によると、騒音発生回数、騒音持続時間、騒音のパワー平均値、月間WECPNL値とも総じてやや減少か横ばいの傾向にあることが認められる。
(2) 沖縄県の平成二年度から平成五年度までの右騒音測定記録によると、WECPNL値の年次的推移は、地点により平成二年度がやや高いほかは全体的に横ばいか低くなっており、また、一日当たりの七〇デシベル(A)以上の騒音発生回数及び騒音累積持続時間の各平均値も、地点により平成二年度、三年度がやや高いほかは全体的に横ばいか低くなっている。
(3) 以上のとおり、各測定地点とも、全体的にみると、騒音量は横ばいかやや減少する傾向にあるといえようが(その原因は証拠上明らかではない。)、一部の地点を除けばそれ程大きな変動があるとは認められない。
10 当裁判所の検証の結果
当裁判所が平成九年九月八日に行った検証の結果は次のとおりである。
(一) 東区学習供用施設
(1) 東区学習供用施設は、嘉手納町字屋良九二八番地の一所在で、本件飛行場北側滑走路中心線上の着陸帯南端から北端へ向かって約二九〇〇メートルの地点から同滑走路と直角に北西へ約七五〇メートルの地点に位置し、生活環境整備法上の区域指定におけるW値九〇以上九五未満の区域に指定されている。右施設は、生活環境整備法八条に基づく嘉手納町東区住民の集会・学習等の用に供する施設として平成九年四月に開設されたものであり、いわゆる一級防音工事(室内において、外部音を三五デシベル以上防止又は軽減する工事)がなされている。
(2) 同所で、午前八時から八時三五分までの間に三回の航空機騒音(一回はエンジン調整音)を測定した。その内訳は、エンジン調整音(機種不明)の測定値が、屋外六五デシベル、屋内五二デシベルであり、また、P―三C対潜哨戒機の離陸時の騒音の測定値が、屋外五三と61.5デシベル(前者の屋内騒音レベルは五二デシベル、後者は不明)であったが、いずれもそれほど大きいという音ではなかった。なお、暗騒音は、屋外が六〇デシベル以下、屋内は四七デシベル以下であった。
(二) 松田祐昌宅
(1) 松田祐昌宅は、前記松田カメ宅(W値九五以上)であり、松田祐昌は、承継前一審原告松田カメの訴訟承継人である。
(2) 同所で、午前一〇時から一一時までの間に四回の航空機騒音を測定した。その内訳は、F―一五イーグル戦闘機の離陸時の騒音の測定値(三回)が、屋外一〇九ないし一一〇デシベル、屋内はいずれも八九デシベルであり、KC―一三五空中給油機の離陸時の騒音の測定値が、屋外八一デシベル、屋内六三デシベルであった。
なお、屋内での測定は防音室で行ったが、隣室との内壁及び防音建具である襖二枚が撤去される等していたため、本来の防音効果はない。そして、暗騒音は、屋外が六〇デシベル以下、屋内は測定不能であった。
(3) F―一五イーグル戦闘機が上空を通過したときは、金属性の鋭く高い音で音量も極めて大きかった。」
15 二三二頁八行目の「9」を「11」と改め、二三三頁末行及び二三四頁初行の各「原告松田宅」をいずれも「承継前原告松田宅」と改める。
16 二三四頁末行の「個々の」から二三五頁四行目の「総合すると、」までを「一審原告らの一部については、各居住地の都市計画法上の用途地域を明らかにする証拠として、甲第四七七号証の1ないし6があるところ、もとよりそれのみでは直ちにその地域特性が明らかになるとはいい難いが、前述したところに右証拠を総合すると、」と改める。
17 二三六頁七行目の「当裁判所」を「原裁判所」と改める。
18 二三七頁六行目の「騒音調査結果」の次に「及びこれらをもとに当時のWE値を推定した後記の沖縄県調査の結果」を加える。
19 二三九頁末行から二四〇頁初行にかけての「述べたとおりであるところ、」を「述べたとおりであり、また、平成四年以降もやや減少ないし横ばいの傾向にあることは、前記9「原判決で認定された年度以降の騒音測定記録の検討」(三)で述べたとおりであるところ、」と、二四〇頁初行の「復記前後の騒音調査結果や」を「復帰前後の騒音調査結果や後記の沖縄県調査の結果と」と、七行目の「平成三年」を「平成七年」と各改める。
20 二四二頁五行目末尾の次に「また、前認定の各測定地点における騒音量のおおよその傾向も、生活環境整備法上の区域指定におけるW値による騒音レベルの区分と矛盾するものではなく、この点からも右W値をもって各一審原告らの住居における騒音量を推定する資料であると評価することは、不合理とはいえない。」を加える。
21 二四四頁八行目から二四六頁二行目までを次のとおり改める。
「 これに対し、一審被告は、一審原告らに対する航空機騒音の影響の有無、程度は、各一審原告らごとに確定されるべきものであるから、一審原告らは、それぞれの居住地等における航空機騒音がどの程度であり、一日の生活のうちどの程度その騒音に暴露されているかという点を主張立証する必要があるにもかかわらず、具体的な主張立証を行っておらず、また、特定地点における測定結果から騒音暴露の諸条件を異にする地点の騒音発生の実態を推認したり、同一視することは不適当であること、さらに、生活環境整備法に基づく区域指定の際に使用した騒音コンターは、防衛施設としての飛行場周辺における航空機騒音が日々の航空機の運航状態に応じて変化する特殊性を考慮して、周辺対策をより手厚くする趣旨から、累積度数九〇パーセントに相当する飛行回数を一日の標準飛行回数とする方法によりW値を算出したものであるから、各指定区域内に居住することが直ちにその指定に対応したW値に応じたうるささに常時暴露されていることを意味するものではなく、前記沖縄県の測定地点についてみると、現実には一年間のうち一割程度の日数だけ右W値に対応する騒音が発生しているにすぎず、残りの日々においては右W値未満の騒音にしか暴露されていない(具体的には、一審被告の最終準備書面六五頁七行目から八八頁末尾(沖縄県移動測定点位置図を含む。)までの記載のとおり)と主張する。
確かに、前記1に記載したとおり、一審原告らに対する航空機騒音の影響の有無、程度は、航空機が発する騒音の音量、音質、発生頻度のほか、各一審原告らの居住地と本件飛行場との距離あるいは飛行経路との位置関係、さらには風向、地形等の自然条件によっても違ってくることは経験則上明らかであるから、各一審原告らの居住地ごとに騒音の影響の有無、程度が異なるのは当然である。
しかしながら、航空機騒音のパワーレベルは、他の騒音発生源のそれに比べてはるかに大きく(証人山本剛夫及び同宮北隆志の各証言によれば、航空機と地上での測定点までの距離を一〇〇メートルとし、測定点での騒音レベルを一一〇デシベルとすると、航空機のパワーレベルは一六〇デシベルと計算され、これと普通乗用自動車一台のパワーレベル約一〇〇デシベルと比較すると、エネルギー量に換算して一〇〇万倍に相当するという。)、しかも航空機騒音は相当距離のある上空から一様に暴露されるという特質があるから、一定の地域ごとに同程度の騒音暴露量であると推認してもあながち不合理であるとはいえず、また、一審原告らは航空機騒音等により被る被害を共通被害として主張しているのであるから、厳密にいえば暴露される騒音量に多少の差異はあっても、慰藉料の額に差を設ける程の違いはない者同士を一グループとし、騒音量の違いによりある程度概括的にグループ分けをすることができる合理的な証拠があるのであれば、それによって各一審原告らの居住する地域における騒音の程度を認定することも許されるというべきである。
これを本件についてみるのに、本件のWECPNL騒音コンター図(原判決添付の別紙第一三「WECPNLコンター」)は、前記5のとおり株式会社アコーテックが防衛施設庁の委託により昭和五二年一二月に本件飛行場周辺で行った騒音調査の結果に基づき同程度の騒音が到達する地域の概括的な区分を示すものとして作成したものであり、防衛施設庁は、概ね右騒音コンター図を基礎とし、道路、河川等現地の状況を勘案して昭和五三年一二月一八日以降に生活環境整備法所定の区域指定を告示しているのであるから、右騒音コンター図に基づいて各一審原告らの住居に到達する騒音の程度を推認することが不合理であるとはいえない。そして、累積度数九〇パーセントに相当する飛行回数を一日の標準飛行回数とする方法によりW値を算出するのは、前記のとおり航空機の運航が不定期である軍事空港の場合、住民は、ある一定期間中の平均的飛行回数ではなく、その期間中の飛行回数の多い日のうるささを基準にうるささを判断することから、累積度数九〇パーセントに相当する飛行回数を一日の標準飛行回数とすることによって、生活妨害に対する住民の反応について、定期的に飛行が行われている民間空港のそれと同等に評価することが可能であり、またそれが合理的であるとの研究結果によるものであり、防衛施設庁が定めた「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準」(甲二六一の2、乙二〇七)もこの研究結果に依拠しているものと考えられるのである。そうであれば、一審原告らが共通被害であると主張している少なくとも生活妨害や精神的被害の有無、程度を判断するに当たって騒音の程度を右W値を基準として判断することには合理性があるというべきであって、たとえ一審被告が主張するように当該区域指定に対応するW値を下回る騒音しか発生していない日が多くあったからといって(逆に、右W値を上回る騒音が発生する日もある。)、合理性を欠くことにはならない。
なお、特定地点における測定結果は、右測定地点とさほど変わらない条件の住居地に居住する一審原告らについては、ある程度その測定結果に基づいて騒音の程度を推認することは可能であると考えられるが、前記のとおり場所的、時間的に限られたものであり、一審原告らの居住地全部を網羅した詳細かつ広範な調査とは必ずしもいえないから、それを資料として推認することには一定の限界がある。したがって、右測定結果は、騒音の程度を認定するに当たってはもとより重要な資料であってこれを考慮することは当然であるが、この測定結果は、主として、前記区域指定におけるW値によることの具体的な合理性や相当性の検証の資料及び具体的な騒音の程度を認定する場合の補完的資料として取り扱うのが妥当である。
もっとも、身体的被害とりわけ難聴、耳鳴り等の聴覚被害については、一審被告の主するとおり当該区域指定に対応するW値を下回る騒音しか発生していない日が多いことは十分考慮する必要があるというべきであり、W値の他に各日について算出した騒音のパワー平均値、実際の騒音回数、騒音持続時間等も考慮する必要があるであろう。
なお、一審被告は、ピークレベルのパワー平均値ないしそれをもとに算出するW値は、騒音の実態を反映する唯一の尺度ではなく、たとえば旧公害対策基本法(平成五年一月に廃止)九条の規定に基づき閣議決定(昭和四六年五月二五日)された「騒音に係る環境基準について」では、騒音の測定結果の評価について、原則として中央値を採用すると定めており、これと比較すると、前者は、発生した騒音のうちピークレベルの高いものに影響される場合の多いことが分かり、その大半はこれを下回るピークレベルにすぎないこともまれではないから、騒音を評価する場合に、ピークレベルのパワー平均値ないしこれを基に算定されるW値を過度に重視することは相当ではなく、相応の位置づけを与えるにとどめることが重要であると主張する。
しかし、後記第四「被害」の一2(二)のとおり、航空機騒音には、音量が大きく、発生が間欠的であること、騒音の及ぶ面積が広大であり、ジェット機の場合高周波成分を含む金属的な音質を有すること、飛行機の進行に伴いそのレベルや周波数が変動すること等の特殊性があることから、航空機騒音の大きさを評価する単位として、各国において様々な評価単位が提唱されているが、わが国では、環境庁長官が、昭和四八年一二月二七日に告示した「航空機騒音に係る環境基準について」において、ICAO(国際民間航空機構)が提唱したW値を基準値として採用しており(後記第六「違法性(受忍限度)」の三1のとおり)、これが現時点においては飛行場周辺地域の住民が受ける感覚騒音量を評価する最も適切な評価単位と考えられる。
また、右「騒音に係る環境基準について」は、工場騒音、道路交通騒音を中心とした一般騒音につき閣議決定されたものであって(乙一〇)、航空機騒音、鉄道騒音及び建設作業騒音には適用されないとしているから(乙二九一)、騒音の特質に応じた評価がなされるべきであるという観点からすると、右「騒音に係る環境基準について」における騒音の評価方法は、必ずしも航空機騒音の評価方法として適切であるとはいえず、W値による評価が相当というべきである。ちなみに、一審被告も最終準備書面五八頁以下においてW値による評価が相当であると主張している。」
二 航空機の墜落等の危険
この点についての当裁判所の認定、判断は、原判決二四六頁四行目から同二四八頁末行までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
ただし、原判決二四六頁四行目の「原告ら各本人」を「三四七、三六〇、三六二、四〇〇、四一四、四一五の1、2、証人粟国正昭及び同伊波昭夫、一審原告ら各本人〔原審〕、同佐次田勇〔当審〕)」と改め、二四八頁六行目の「発生しているという事実」の次に「(右各証拠)」を加える。
三 振動、排気ガス
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加するほかは、原判決二四九頁二行目から二五二頁七行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 二四九頁三行目冒頭に「(一)」を加える。
2 二五〇頁四行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
「(二) 右大阪府立大学工学部災害科学研究所は、右調査に引き続き、昭和四四年一二月二四日から同四五年五月三一日にかけて大阪国際空港周辺で、家屋の振動について調査したが、それによれば、前回の調査結果は短期間にまとめたので不十分な点が多かったとして、さらに調査した結果、①地面の振動測定については、加速度計ピックアップの設置法により全く異なった測定結果が得られ、信頼性のないことが判明したので、この点についての前回の測定結果を取り消すこと、②航空機通過による家屋の振動は、航空機の近接とともに増加し、直上を通過して数秒後に最大となり、のち減衰すること、③振動加速度は上下方向のものが水平方向よりやや大きいこと、④振動は不規則振動であって、その振動数は非常に高く、かつ広帯域にわたって分布し(三〇ないし三〇〇〇ヘルツ)、ほとんど音圧の周波数分布の範囲に対応していること、⑤不規則振動のうち、卓越振動(不規則な振動波形のうちで特に大きな正弦波振動が支配的に現れる場合をいう。)がかなり明瞭に現れること、⑥同一箇所の振動加速度の対数値は、概して音圧レベルに比例しているようであり、測定値の信頼性が高い家屋部材の卓越振動の加速度振幅の対数値は、ほぼ音圧レベルデシベルに比例すること、なお、卓越振動の加速度振幅の最大値は一五〇ガルであること、⑦同じ音圧でも構造の弱い家屋ほど大きな振動加速度を生ずること、⑧測定した機種の騒音レベル、振動加速度は、前回調査と同様四発ジェット機(コンベア八八〇機)であり、ターボプロップ機やプロペラ機による振動は小さいこと、⑨本調査でみられた以上のような振動が人間の機能及び建造物に及ぼす影響について、従来の文献からみる限り、人間に対して不快感を与えるものの我慢できる程度であるといえるが、右文献はいずれも一〇〇ヘルツ以下の振動に対するものであるから、本調査でみられる一〇〇ヘルツ以上の振動に対して判定基準となるかどうか疑問であること、また、建造物に対する被害が生ずる場合もあると考えられるが、本調査のように振動数の極めて高い不規則な振動で、長時間にわたって生ずる被害についての研究資料がないので、正確な判定は今後の研究に待つ必要があると報告されている(乙一九二)。
(三) 財団法人航空公害防止協会が財団法人小林理学研究所の時田保夫主任研究員に委託して、昭和四八年三月一二日から一四日に行った「大阪国際空港周辺における影響調査(昭和四八年)によると、①屋根瓦の振動は、航空機騒音デシベル(C)によく対応し、振動加速度と騒音レベルデシベル(C)との間には比例関係があること、②騒音には低周波音も含まれるが、振動に寄与すると思われるのは騒音領域(特に八〇ないし八〇〇ヘルツの間)で、一二五ヘルツ成分に着目してよいこと、③大きな振動を示す機種は、比較的騒音の大きな機種で、DC―八、B―七二七(L)機などであること、④屋根瓦の振動は、新しい瓦においては、騒音が九五デシベル(A)を越えると二〇ガルにまで達することがあり、旧い遊離した瓦では三〇ガルを越えるが、瓦がずれる被害は、今回の調査では判定できず、これを確かめるためには、広域実態調査や基礎実験が必要であると報告されている(乙一九三)。
(四) 財団法人航空公害防止協会が九州芸術工科大学北村音壹教授に委託して、昭和四八年一月一八日、一九日及び同年四月一五日に行った「福岡空港周辺における影響調査第一回調査(昭和四八年)」によると、航空機騒音による家屋建造物の振動が壁に亀裂を生じたり、瓦がずり落ちたりすることの主要因であるかということは、今回の測定結果のみからは結論できないが、航空機騒音が一〇〇デシベル(C)を超えると、約一〇ガル以上ないしは一〇〇ガルを超す加速度が生じると考えられ、航空機の騒音レベルによっては、家屋建造物は相当大きな振動をしているものと考えられるので、実害を生じる可能性がないとはいえないと報告されている(乙一九三)。
また、右北村教授が昭和四九年二月二四日、三月七日及び五月二六日に行った「福岡空港周辺における影響調査第二回調査(昭和四九年)」によると、①航空機騒音レベルと瓦の振動加速度レベルとの比例常数は、大体1に近い値を示すこと、②航空機騒音による普通の日本家屋の瓦の振動は、騒音レベル九〇デシベル(C)で一〇ガル、一〇〇デシベル(C)で三〇ガル、一一〇デシベル(C)で一〇〇ガル程度であること、③今回の調査対象家屋の場合、瓦のずれはみられなかったが、今後瓦のずれの生じる航空機騒音レベル、飛来頻度を知るためには、さらに大きい騒音レベルについて基礎実験、模型実験を行う必要があると報告されている(乙一九三)。
(五) 航空公害研究センター顧問守田栄は、「航空公害」の「航空機通過に伴う家屋の振動」の項において、「数年前、小林理学研究所で測定された大阪空港の滑走路側方三〇〇ないし四〇〇メートルの家屋についての大型ジェット機離陸時の建物自体の振動(柱及び床)の実測値をみると、加速度レベルの三分の一オクターブ分析では可聴周波数範囲に最大七〇ないし八〇デシベルのものがみられるが、振動レベルの補正をしてみると、最大も五〇デシベル内外を超えるものはみえない。この割合で推定すると、航空機が三〇ないし四〇メートルまで接近する建物を除いて、航空機による振動(略)が何らかの被害につながることはほとんどないものと考える。」と述べている(乙一九四)。なお、振動レベル五五デシベル内外が人間の振動感覚の閾値である。」
3 二五〇頁五行目の冒頭に「(六)」を加える。
4 二五一頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「(七) 一審被告は、前認定の各種調査結果を総合すると、航空機騒音と家屋等に生じる振動との関係は十分に解明されていない状況にあるうえ、実際に生じる振動は、航空機騒音のレベルが同一であっても家屋等の構造その他の諸要因次第で全く相違してくるから、一審原告らの居住する家屋等に生じた振動の程度を客観的数値に基づき具体的に明らかにしないまま、漫然と航空機騒音によって生じた家屋、建具等の振動により、本件飛行場周辺の家屋内の住人に不快感を与えているものと認定することは許されないと主張する。
なるほど、航空機騒音と家屋等に生じる振動との関係は十分に解明されているとはいえず、航空機騒音による振動は、騒音レベルだけではなく、家屋等の構造によっても違ってくることは確かであるが、生活の場である家屋等に生ずる振動は、それが極めて軽微なものでない限り、住人が不快に感じるのは経験則上明らかであり、前記各調査結果によれば、航空機騒音のレベルが増大するほど家屋等に振動が生じる可能性が高いことはほぼ異論のないこととして認められ、一審原告ら代理人が甲A一ないし八九号証をもとに、一審原告らの訴えを生活環境整備法上の区域指定におけるW値ごとに分類して集計した結果によってもW値七五、八〇、八五、九〇、九五の順に、それぞれ約二九パーセント、約三八パーセント、約四七パーセント、約七二パーセント、約八五パーセントとW値の高い地域ほど振動による被害を訴える割合が増大していること(甲三三八)等に照らすと、たとえ振動の程度を客観的数値に基づき明らかにしなくとも、少なくとも本件飛行場に近接した地域に居住する一審原告らに対し振動による不快感を与えていることは容易に推認できるところである。」
第四 被害
一 総論
1 被害認定の基本的立場
当裁判所も、航空機騒音等による一審原告らの被害は、原則として、各一審原告ごとに個別的に立証すべきであり、なかんずく身体的被害の立証については、一審原告らの本人尋問、陳述書等の主観的な証拠では足りず、各一審原告ごとに診断書等の客観的な証拠による医学的な裏付けが必要であるが、会話妨害等の生活妨害、睡眠妨害、いらだちや不快感等の精神的被害については、各一審原告に共通する最小限度の被害を想定することが可能であり、かつそのような被害を証明できるならば必ずしも個別具体的に右被害を立証するまでの必要はないと考えるものであり、その詳細は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決二五二頁一一行目から二五五頁一〇行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
(一) 原判決二五三頁六行目の「本件飛行場に」を「本件飛行場で」と、二五五頁六行目の「生じる危険性」から八行目の「ならば、」までを「生じる客観的かつ高度の危険性のあることが住民調査、学術研究等により認められるならば、」と各改める。
(二) 二五五頁一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「 これに対し、一審原告らは、身体的被害の場合にのみ、個別具体的な主張立証が必要であるとし、かつ、被害や因果関係の立証方法として、診断書や鑑定等を要求するのは、余りにも過酷な立証を一審原告らに負わせようとするものであり、本人尋問や陳述書、アンケート等にあらわれた一審原告らの訴えを軽視するものであるばかりか、科学的にみても不可能を強いるものであると主張する。
しかしながら、前述したとおり、会話妨害等の生活妨害、睡眠妨害、いらだちや不快感等の精神的被害については、全員について同等にその存在が認められるものや、その具体的内容において若干の差異はあっても、これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差がないと認められるものも存在するから、このような観点から共通の被害が発生したととらえることも可能であると考えられるが、難聴等の身体的被害の場合には、右のような意味での共通の被害を観念することは困難であるから、まず個々の一審原告について、現実に生じている身体的被害を確定したうえで、それと本件航空機騒音等との因果関係を立証すべきものである。
一審原告らは、一定レベルの騒音に暴露されることによって、大多数の人に一定の身体的被害が生じる危険性が認められるならば、それこそまさしく共通の身体的被害であると主張するが、単なる身体的被害発生の危険性だけでは未だ身体的被害が発生したとはいえず、右に述べたとおり、そのような危険性のある状態で生活しなければならないという精神的苦痛をもって共通の精神的被害と認めうることができる限度で慰藉料の算定において考慮できるというべきである。
そして、右身体的被害そのものの認定のためには、その性質上単に本人の主観的な訴えだけでは足りず、これまでの各種の公害訴訟における身体的被害の立証活動に見られるように各人について診断書や鑑定等客観的な証拠が必要であるというべきであって、たとえそれが騒音によるストレス等から発生する頭痛、肩こり、高血圧等後記六の「その他の健康被害」記載の身体的被害で、騒音による間接的影響と考えられるものであっても、これを要求することが過酷であるとか科学的にみて不可能を強いるものであるとはいえないから、一審原告らの右主張は採用できない。
一方、一審被告は、睡眠妨害を除く生活妨害について、在宅時間の長い主婦であるか、通勤者であるかなどによって騒音暴露の時間、量が全く異なり、また、一審原告ら全員が学習、読書をしているわけではないから、一審原告らそれぞれが被る被害の性質、程度は、一審原告らの生活実態によって全く異なるというべきであり、一審原告ら各人についてこれら被害の性質、程度を立証する必要があると主張する。
しかしながら、後記のとおり一審原告らの多くについて会話妨害、電話聴取の妨害、テレビ・ラジオの聴取妨害の被害が発生していることが認められるほか、学習、読書に限らず思考、考え事を含めた広い意味での精神作業は、少なからず各人が行っていることであるから、右妨害についても、やはり一審原告らの多くに生じているものと認められ、その限度で共通の被害が発生しているものと認めてよいと考えられる。また、被害の程度については、確かに一審被告の主張するように同等の騒音レベルの地域に居住する者であっても、在宅時間の長い主婦であるか、通勤者であるかなど各人の生活実態によって違いがあると考えられるが、この点についても通常在宅している夜間、休日における騒音等の暴露を共通のものとみて、それによって最低限生ずるであろう被害の程度を共通の被害としてとらえることは可能であり、そうであれば、前述したとおり同等の騒音レベルの地域に居住する一審原告らについて最低限共通するほぼ同等の被害が生じていると推認することができるというべきである。したがって、このような被害が証明できれば、一審原告ら各人について個別具体的に被害の性質、程度を立証することは必ずしも必要がない。」
2 騒音(航空機騒音)の一般的特色
この点についての当裁判所の認定、判断は、原判決二五五頁末行から二六〇頁九行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
二 生活妨害
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決二六〇頁一一行目から二八五頁一一行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 二六二頁四行目の「甲A各号証」を「甲A一ないし八九号証」と改める。
2 二六三頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「2 本件飛行場周辺地域での沖縄県の騒音健康影響調査(甲四三九、四四四、四六五、証人宮北隆志)
(一) 沖縄県は、財団法人沖縄県公衆衛生協会に対し、平成七年度から平成九年度の三か年計画で、基地周辺の航空機騒音が住民に与える精神的、身体的影響の調査を委託した。右委託を受けた同協会は、京都大学名誉教授山本剛夫を会長とする「航空機騒音健康影響調査研究委員会」を設置し、航空機騒音による健康影響に関する調査として、平成八年度に、①THI(東大式自記健康調査表)等アンケート調査、②聴力影響調査、③低体重児等調査、④睡眠影響調査、⑤健康特性調査、⑥航空機騒音曝露実態調査を実施した(以下、この調査を総称して「沖縄県調査」といい、その調査結果の概要並びにその評価は、以下の各被害項目等関連する箇所において必要な限度で認定、判断する。)。
(二) 右調査のうち航空機騒音の生活及び環境質に及ぼす影響に関する質問紙調査は、生活の質を評価し、騒音暴露の存在が地域の生活環境にどのような影響を与えるか、また、回答者の騒音に対する態度がどのようなものであるかを知る目的で、平成八年一一月から平成九年一月にかけて、航空機騒音暴露群として本件飛行場周辺の石川市、具志川市、沖縄市、嘉手納町、北谷町及び読谷村(W値七五ないし九五の地域)、普天間飛行場周辺の宜野湾市、浦添市及び北中城村(なお、防衛施設庁による生活環境整備法上の区域指定がなされていないが、航空機騒音の暴露を受けている可能性がある地域も調査対象に含めており、右地域については、防衛施設庁が株式会社アコーテックに委託して測定した騒音測定記録に基づき右研究委員会がW値七〇と線引きした結果、W値七〇ないし八〇の地域に区分されている。)、非暴露群すなわち対照群として沖縄本島南部の二町一村(佐敷町、南風原町及び大里村)の各住民に調査票を配布し、平成八年一一月から平成九年三月にかけてこれを回収すること(有効回答数五六九五)により実施された。なお、今回調査の対象となった北谷町民は、後記四「精神的被害」2「本件飛行場及び他の飛行場での住民調査等」(一)の山本剛夫を会長として構成された住民健康調査研究会が平成三年に実施したTHI等アンケート調査の対象となった北谷町民とは重複していない。
それによると、睡眠妨害を除いた生活妨害についての調査結果は、以下のとおりであると報告されている。
各種生活妨害のうち、特にテレビの聴取妨害、電話の聴取妨害及び会話妨害の被害を訴える率が高く(なお、迷惑、被害の頻度については「1 いつもある」、「2 ときどきある」、「3 たまにある」、「4 あまりない」、「まったくない」の五つの選択肢によっている。)、テレビの聴取妨害では、「2 ときどきある」以上の回答率がW値八五及びそれ以上の群で五〇パーセントを超し、W値九五以上の群では約九〇パーセントの回答率であり、「3 たまにある」も含めると、すべてのW群で五〇パーセントを超す回答率となっている。これは、電話の聴取妨害及び会話妨害においてもほぼ同様の傾向である。
また、思考妨害、休息妨害では、「2 ときどきある」以上の比率でみると、W値七〇から八五までの群は一〇ないし二〇パーセントの回答率でゆるやかに増加し、W値九〇及び九五以上の群で四〇パーセント程度まで回答率が増加している。
そして、右研究委員会の報告では、以上のような傾向からみて、W値が増大するとともに被害の回答率が増加する量反応関係が明瞭に見出されるとしている。
なお、右研究委員会は、被調査者に対し、調査の目的が基地の航空機騒音による影響を調べるものであることを明らかにしたうえで生活及び環境質調査を行っているところ、調査目的を明らかにしていないTHI調査と同じ質問項目を設けて比較検討するなどした結果、バイアスがかかっていないと判断している。」
3 二六三頁二行目の「2」を「3」と改める。
4 二七三頁八行目の「小学生」を「小学校」と改める。
5 二七四頁三行目の「3」を「4」と、五行目の「2(二)(1)」を「3(二)(1)」と各改め、一〇行目の「生じていることは」の次に「前記沖縄県調査によっても」を、末行末尾の次に「なお、前記沖縄県調査にバイアスの問題があるとしても(そもそも航空機騒音の問題が激しい地域で質問紙による調査をする場合には、それが航空機騒音に関する質問であることを回答者に気付かせないで行うことは困難であるから、この種調査には避けられない問題であるともいえる。)、これが専門家による大規模な調査であることを考慮すると、一審原告らの主観的な訴えに比べ相当程度客観性をもった結果が得られているものと判断される。」を各加える。
6 二七五頁八行目の「最近の一〇年の間は、」を「平成三年より以前の一〇年間は、」と、二七六頁一一行目の「第二」を「第三」と、同行の「当裁判所」を「原裁判所」と各改める。
7 二七八頁五行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、右各種生活妨害は、その性質上、室内における妨害が問題となるものであるから、妨害の有無、程度を判断するに当たっては室内騒音レベルをもって判断すべきであるところ、原審の検証の結果(第一回)によれば、防音室における騒音レベルは、最高で63.5ないし68.5デシベル(A)にすぎず、会話妨害などは全く生じない騒音レベルであるから、被害は軽微であると主張する。
しかしながら、防音効果を発揮するためには、部屋を密閉する必要があるが、一日密閉された状態で生活することは困難であり、防音室以外での生活時間も一定程度必要であること、また、沖縄の場合は、夏期を中心としてかなりの期間(約五か月ないし六か月間)冷房を使用しないと密閉状態で生活することは困難であるが、電気料金の負担もあって、防音室で生活することは必ずしも現実的な生活形態とはいえないこと等を考慮すると、聴取妨害等の騒音被害が一部軽減されているとはいえても、必ずしも被害が軽微であるとはいえないというべきである。
なお、前記沖縄県調査の生活質調査の結果(甲四四四)によると、ある程度以上防音工事の効果を評価する者は、WE値が低い群では、八〇パーセント程度みられ、かなりの高率であるが、その割合は、WE値が高くなればなるほど少なくなる傾向がみられ、WE値九五以上の群では、四〇パーセントを下回っていること、また、防音効果がある程度以上あると答えた者の中でも、「十分にある」と答えた者は、WE値七五の群でも一〇パーセントを下回っており、WE値九五以上の群ではほとんどいないこと、テレビ聴取妨害、電話聴取妨害、会話妨害等の一般生活妨害について、防音工事実施群と非実施群を対照すると、訴え率に著明な差は認められなかったことが認められ、右調査結果によっても、右の認定は裏付けられているものというべきである。」
8 二七八頁一一行目から一二行目にかけての「前記2(一)のとおり、」を「前記2及び3(三)のとおり、本件飛行場周辺地域での沖縄県調査及び」と、二七九頁二行目の「2(一)3」を「3(一)(3)」と、二八〇頁四行目の「前記2(一)の他の飛行場での住民調査の結果や1の原告らの訴えを加味することによって判断するほかないところである。」を「前記2の本件飛行場周辺地域での沖縄県調査の結果及び3(一)の他の飛行場での住民調査の結果を中心にそれと一審原告らの訴えとを比較することによって判断するほかないところである。」と、六行目の「第二」を「第三」と各改める。
9 二八一頁三行目の「高いから、」から四行目の「高いとはいえないにしても、」までを「高いうえ、前述したとおりたとえ騒音暴露が短時間であっても、こうした経験を繰り返ずことにより、不快感が蓄積し、増幅するものと認められるから、これによる被害の程度は、北谷町砂辺や嘉手納町役場に比べれば低いとはいえ、」と、五行目の「第二」を「第三」と各改める。
10 二八二頁二行目の「これによる被害の程度も」から九行目末尾までを次のとおり改める。
「これによる被害の程度も無視できない水準に達している。また、W値七五以上八〇未満の地域では、WECPNL値のパワー平均値、騒音発生回数、騒音持続時間等につき前記各地域よりさらに低いが、前記1の一審原告らの訴えをみると、W値七五以上八〇未満の地域に居住する一審原告らのうちで、会話妨害の訴え率は約七六パーセント、電話妨害の訴え率は約七一パーセント、テレビ、ラジオの聴取妨害の訴え率は約八五パーセント(甲三三八)と生活妨害の訴え率はかなり高率である。もっとも、この点については前述したとおり訴訟当事者による訴えであることは考慮に入れる必要はあるが、前記2の沖縄県調査では、W値七五以上八〇未満の地域に居住する者が右電話、テレビ、ラジオの聴取妨害、会話妨害等の被害を訴える率は、「1 いつもある」及び「2 ときどきある」という頻度では、テレビ、ラジオの聴取妨害が約三〇パーセントないし四〇パーセント、電話の聴取妨害及び会話妨害が約二〇パーセントないし三〇パーセントであり、これを「1 いつもある」から「3 たまにある」という頻度に広げると、電話の聴取妨害及び会話妨害が五〇パーセントないし六〇パーセント前後であり、テレビ、ラジオの聴取妨害はそれよりやや高いこと、前記3(一)の他の飛行場での住民調査の結果をみると、東京都公害研究所の横田飛行場周辺での住民調査の結果では、NNI四〇台(W値に換算すると、飛行回数とも関係するが、七五に相当する〔甲八五〕)で家族との会話妨害を訴える者が五〇パーセント、電話の聴取妨害では五〇パーセント以上、テレビ、ラジオ、レコードの聴取妨害では「小さな音でもききとれる」、「普通の声でききとれる」以外の回答を支障ありとすると、七〇パーセントとなり、NNI三〇台の地域(対照地区)とNNI四〇台の地域との間に有意な差があることが認められること(甲二一三)、財団法人大阪国際空港メディカルセンターが大阪国際空港周辺地域で行った調査結果では、W値七〇以上八〇未満の地域に居住する住民のうち、家の中での会話妨害について「しょっちゅうある」が一三パーセント、「時々ある」が六七パーセント、電話の聴取妨害について「しょっちゅうある」が一七パーセント、「時々ある」が六〇パーセント、テレビ、ラジオの聴取妨害について「しょっちゅうある」が二五パーセント、「時々ある」が六三パーセントあり、「時々ある」までを含めると聴取妨害を訴える者はかなりいることを示しており、また、会話妨害、電話聴取妨害等五項目の騒音妨害度スコアがW値七〇以上八〇未満の地域は八〇以上九〇未満の地域と同じ九点を中心とした分布を示していること(乙一四三)等、より客観性の高い住民調査の結果でもかなりの聴取妨害があることが認められることに照らすと、前記一審原告らの訴えはそれなりに信用できるものというべきである。以上の検討結果によれば、W値七五以上八〇未満の地域での聴取妨害等も決して軽微とはいえず、無視できないものがある。」
11 二八三頁三行目の「2(三)」を「3(三)」と、五行目の「前記2(一)の」を「前記2の本件飛行場周辺地域での沖縄県調査の結果及び3(一)の」と各改め、九行目の「明らかであり」の次に「(特に作業が複雑であったり、長時間にわたる場合には顕著である。)」を加える。
三 睡眠妨害
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決二八六頁初行から三〇一頁初行までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 二八六頁一一行目の「甲A各号証」を「甲A一ないし八九号証」と改める。
2 二八七頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「2 沖縄県調査の結果(甲四三九、四四四、四六五、証人宮北隆志、弁論の全趣旨)
(一) 前記沖縄県による航空機騒音の生活及び環境質に及ぼす影響に関する調査の結果によると、睡眠妨害について以下のとおりであると報告されている。
睡眠妨害について、「1 いつもある」及び「2 ときどきある」という頻度の比率でみると、W値七〇から八五までは一〇ないし二〇パーセントの回答率でゆるやかに増加し、W値九〇及び九五以上で四〇パーセント程度まで回答率が増加している。また、頻度が「3 たまにある」以上の比率でみると、W値七〇から八〇までは二〇ないし四〇パーセント弱の回答率で徐々に増加しており、W値が増大するとともに回答率が増加する量反応関係が明瞭に見出されるとしている。
また、原因を航空機騒音とは限定しないで睡眠障害に関する五つの設問を示した結果は、「1 週に三回以上ある」及び「2 週に一、二回ある」という頻度で五項目のうち一項目以上の睡眠障害があると回答した者は、対照群でも三〇パーセント弱であるが、W値九五以上の群では五〇パーセントを超える。また、「1 週に三回以上ある」から「3 月に一、二回ある」までの頻度で五項目のうち一項目以上の睡眠障害があると回答した者は、対照群でも六〇パーセント近くあるが、W値が高くなるにつれて増加し、W値九五以上の群では約九〇パーセントとなっており、五項目全部に該当すると回答した者は、対照群では一〇パーセントに満たないが、W値九〇及び九五以上では二〇パーセント程度まで上昇している。
そして、これらの調査結果を多重ロジスティック分析(特定の説明変数と反応率との関係を検討する際、当該説明変数以外の説明変数が反応率を増加させる可能性があるので、その寄与を除外した形で分析する手法)により分析すると、W値が増加するに従って睡眠障害のオッズ比(一定の尺度得点を超えるものの割合〔しきい値〕が、対照群を一とした場合に、各暴露群においていくらとなるかを示す指標)が上昇する傾向が著明に認められ、「1 週に三回以上ある」及び「2 週に一、二回ある」という頻度で五項目全部に該当すると回答した場合のような比較的重度の睡眠障害は、W値九〇及び九五以上の高暴露群でのみ0.01以下の有意確率(統計学的な有意性の程度を表しており、たとえば、二群間の差の有意確率という場合、二群間に差がないにもかかわらず、差があると判断してしまう確率を示す。)で増加傾向が認められるが、五項目のうち一項目以上に該当すると回答した場合には、W値八〇及びそれ以上の群で0.01以下の有意確率で増加傾向が認められた。また、「1 週に三回以上ある」から「3 月に一、二回ある」までの比較的低頻度で五項目のうち一項目以上に該当すると回答した場合は、W値七五及びそれ以上の群で0.001以下の有意確率で増加傾向が認められ、五項目全部に該当すると回答した場合には、W値七五以上の群で0.05以下の有意確率で増加傾向が認められ、このように比較的軽度の睡眠障害は、W値七五及び八〇程度の比較的低暴露な地域においても増加する傾向が認められた。
(二) 研究委員会は、アクチメーター(携帯式の加速度モニター計で、これを被験者に装着することにより、特定の時刻に覚醒していたか睡眠中であったかを推定することができる。)による調査も実施しているところ、その対象者は、本件飛行場周辺のW値八〇以上の地域が三〇名、対照地域が二一名である。
それによると、就床時刻は、男女とも暴露地域の方が一時間程度遅く、起床時刻は、男性では差がなく、女性は対照地域の方が二〇分程度早い。入眠潜時(就床時刻と入眠時刻の間の時間)は、男女とも有意な差はみられなかった。中途覚醒時間は、男性では差がなく、女性は対照地域の方が二〇分程度長かった。就床時間(就床時刻と起床時刻の間の時間)は、男女とも対照地域の方が三〇分程度長かった。総睡眠時間(就床時間から寝つくまでの時間や中途覚醒の累積時間を差し引いた実質的な睡眠時間)は、男性では対照地域の方が三〇分程度長く、女性では差がみられなかった。」
3 二八七頁五行目の「2」を「3」と、八行目の「二2(一)(1)」を「二3(一)(1)」と、二九四頁末行の「3」を「4」と、二九五頁六行目、八行目、二九六頁九行目の各「2」をいずれも「3」と、二九七頁二行目の「経険則」を「経験則」と、末行の「二・三回」を「二、三回」と各改める。
4 二九八頁六行目から二九九頁七行目までを次のとおり改める。
「 また、北谷町役場における早朝、夜間の一日当たりの騒音発生回数は早朝平均一回、深夜平均0.3回であり、嘉手納町役場、北谷町砂辺に比べると、頻度は少ないが、それでも平均すれば一日一回程度は騒音に暴露されている計算になり、また、前記沖縄県調査では、「週に三回以上ある」及び「週に一、二回ある」という比較的高頻度で五項目のうち一項目以上の睡眠障害があると回答した場合について、W値八〇及びそれ以上の群で0.01以下の有意確率で増加傾向が認められていること、もっとも、右は平均であるから、実際に飛行しない日もあることが認められる(乙七九)が、早朝、深夜に騒音のために睡眠が妨げられるという体験を重ねることにより、不快感が高まっていくことは十分に理解できるところであり、睡眠が心身の健康を維持するために不可欠なものであることを考慮すると、後記のような建物自体あるいは防音工事による遮音効果を考慮に入れても(なお、沖縄では窓を解放して生活することが比較的多いが、これは、沖縄の高音多湿の気候からくる生活習慣として、また、生理的に閉め切った部屋で冷房をかけて就寝することを嫌い、あるいは電気料金等の経済的なこと等が理由であると考えられ、これにより防音工事による遮音効果が低減することがあったとしても、一概に責められないというべきである。)、やはりこの地域においても無視できない水準の睡眠妨害の被害を受けているというべきである。
次に、W値七五以上八〇未満の地域についてみるに、限られた資料ではあるが、前記第三の一9(二)の沖縄県による騒音測定結果によれば、地域によっては(読谷村波平、同村伊良皆)夜間、早朝に一日平均一回程度騒音に暴露されていることが認められる。また、前記沖縄県調査によれば、「週に三回以上ある」及び「週に一、二回ある」といった比較的高い頻度での睡眠妨害の訴えについては、対照群と比べて著明な差はなく、「週に三回以上ある」から「月に一、二回ある」までの頻度で五項目のうち一項目以上に該当すると回答した場合は、0.001以下の有意確率で増加傾向が認められ、五項目全部に該当すると回答した場合には、0.05以下の有意確率で増加傾向が認められ、このように比較的軽度の睡眠障害は、W値七五程度の比較的低暴露な地域においても増加する傾向が認められたというのであり、後記の建物自体あるいは防音工事による遮音効果をも考慮に入れると、右地域における睡眠障害の程度は、他の地域に比べると低いといえるが、W値七五以上八〇未満の地域に居住する一審原告らが睡眠妨害を訴える率が、前記のとおり過半数を超える約五六パーセントであることを考慮すると、訴訟当事者による訴えであるとして割り引いて考えたとしても、なお睡眠障害の被害がないとまで断じることはできない。」
5 三〇〇頁二行目の「もっとも、」から二〇一頁初行宋尾までを次のとおり改める。
「もっとも、夜間の騒音量については、前記第三の一3の北谷町役場、北谷町砂辺及び嘉手納町役場の数値のほか、前記第三の一9(二)の沖縄県による騒音測定結果における数値があるものの、資料としては必ずしも十分なものとはいい難い。それでも、前記一審原告らの睡眠妨害の訴え率がW値の上昇に伴って上昇しており、前記沖縄県調査でもそのことがある程度裏付けられていることや経験則にも照らすと、概ね一審原告らの居住地に係る区域指定上のW値の上昇に伴って、睡眠妨害の被害の程度も増すものと認めても不合理であるとはいえないというべきである。
一審被告は、原判決が騒音と睡眠妨害の量的な対応関係等が明らかとなっていないことを認定しながら、かなりの程度の睡眠妨害の被害が発生していることを窺うに十分であると認定することは背理であると主張するが、右認定の趣旨は、騒音と睡眠妨害の量的な対応関係が科学的に解明されてはいないが、そうであっても、民事訴訟における証明は科学的証明とは異なること、前記一審原告らの訴えや他の飛行場の住民調査の結果等の証拠を経験則に照らして判断すると、前記第三の一において認定したところの本件飛行場に近接した地域における航空機騒音に暴露されると、かなりの程度の睡眠妨害の被害が発生していることが認定できるというものであって、当裁判所もこれを是認しうるものと考える。
また、一審被告は、原判決が認定した騒音レベルは、前記北谷町砂辺、嘉手納町役場、北谷町役場のいずれも屋外の測定地点において早朝あるいは夜間に七〇デシベル(A)以上の騒音が発生した回数であるところ、防音室であれば、少なくとも三〇デシベル(A)の防音効果があるから、右の事実は、結局のところ室内において四〇デシベル(A)以上の騒音が発生した回数にすぎないというべきであるが、四〇デシベル(A)程度の騒音により睡眠妨害が生じることはあり得ないというべきであって、右数値以上の騒音の発生した回数が数回あったとしても、騒音量として決して少ないということができないと結論づけることは許されないと主張する。
しかしながら、前記のとおり沖縄では窓を開放して生活することが比較的多いことから防音工事による遮音効果が低減することがあるうえ、防音室の数にも限りがあり、必ずしも防音室で就寝するとは限らないこと、また、七〇デシベル(A)の騒音であるこどもありうるが、それ以上の場合もありうること(なお、騒音のパワー平均値は、前認定のとおり北谷町砂辺で概ね九〇デシベル(A)以上、嘉手納町役場で八五デシベル(A)前後、北谷町役場で八三デシベル(A)前後である。)からすると、一審被告の右主張は採用することができない。
さらに、一審被告は、前記沖縄県調査のうち、アクチメーターによる調査結果をみると、中途覚醒時間は、男性ではほとんど差がなく、女性では暴露地域の方が少なく、また、起床時刻は、男性では差がなく、女性では対照地域の方が早起きであるとなっており、睡眠妨害を否定する調査結果となっていると主張するが、他方、右調査では、就床時間は、男女とも対照地域の方が三〇分程度長く、総睡眠時間は、男性では対照地域の方が三〇分程度長いとなっており、逆の結論を示すかのような調査結果もあるうえ、そもそもこの調査は、被験者数が少なく、また、調査の途上にあって、統計的に一定の傾向を判断できるような調査とは必ずしもいえないから、この結果をもって直ちに睡眠妨害を否定する方向に働く証拠であると評価することはできない。」
四 精神的被害
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決三〇一頁三行目から三一四頁六行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 三〇二頁初行の「甲A各号証」を「甲A一ないし八九号証」と、三〇五頁四行目及び三〇六頁二行目の各「前記二2」をいずれも「前記二3」と各改める。
2 三〇九頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「(六) 前記沖縄県調査におけるTHIアンケート調査は、住民の自覚的健康度を調査する目的で、平成七年一〇月から平成八年九月にかけて、前記第四の二2の航空機騒音の生活及び環境質に及ぼす影響に関する調査と同様、航空機騒音暴露群として本件飛行場周辺のW値七五ないし九五の地域、普天間飛行場周辺のW値七〇ないし八〇の地域、非暴露群(対照群)を調査対象(対照となった市町村は同じ)として行われ、その有効回答数は六四八〇であった。なお、今回の調査による回答に、前記(一)の平成三年に北谷町で実施された自覚的健康度調査の回答(有効回答数は六一五)に加えて調査結果の検討が行われた。
THIアンケート調査の質問は、一二種類の尺度に分けられるが、研究委員会では、「多愁訴」、「呼吸器」、「眼と皮膚」、「口腔と肛門」及び「消化器」の五尺度を身体的自覚症状と、「直情径行性」、「虚構性」、「情緒不安定」、「抑うつ性」、「攻撃性」、「神経質」及び「生活不規則性」の七尺度を精神的自覚症状と分類しており、右調査のうち、精神的被害についての調査結果は、以下のとおりであると報告されている。
W値と各尺度得点との関係につき、多重ロジスティック分析をすると、精神的自覚症状のうち「情緒不安定」、「抑うつ性」、「攻撃性」及び「神経質」の四尺度で、W値との間に高度に有意な関連が認められ、その量反応関係については、「神経質」では、W値七五未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響がみられたが、「情緒不安定」、「抑うつ性」では、W値が九〇以上の暴露レベルの高い群において影響が認められた。
また、「心身症」、「神経症」の各判別得点(右尺度得点から、一定の判別式を用いて、「心身症」、「神経症」の判別得点を算出し、これが正であれば、右各症状があると判断されることになる。)についても、同様な分析を試みたところ、いずれの疾患についてもW値との間に高度に有意な関連が認められ、「心身症」については、W値八〇以上の群から増加する傾向があり、W値九五以上の群では、対照群の二倍程度であり、「神経症」については、W値九五以上の群においてのみ差がみられ、その比率は対照群の二倍近い値であった(ただし、証人宮北隆志は、神経症について二倍近い値であったという報告書の記載部分を訂正しており、正確には1.6倍程度であることが認められる。)。
なお、沖縄県調査では、前述したとおり「多愁訴」を身体的自覚症状として分類しており、前記2(三)及び(五)記載の「多愁訴」についての調査結果は、後記六の「その他の健康被害」(騒音がストレスの発生原因の一つとして働き、身体的被害が発生するものと考えられる。)を検討する際にも参照される。
(七) 前記航空機騒音の生活及び環境質に及ぼす影響に関する調査結果では、不快感、不安当の精神的被害について以下のとおり報告されている。
基地騒音のうるささに関する質問について、年齢・性別の構成比率が対照群と一致するように調査を行って分析した結果、W値との著明な量反応関係が認められるとしている。なお、W値七〇群と七五群との間で量反応関係が逆転する傾向が認められる点については、研究委員会では、同じW値の指定でも本件飛行場周辺と普天間飛行場周辺で回答の傾向が異なることに起因していると分析している。
また、「イライラ感」については、頻度が「3 たまにある」以上の回答率は、すべてのW値で四〇パーセント以上あり、相当の割合の回答者が航空機騒音による不安感を受けていることが分かるとし、「飛行機の墜落の不安」、「飛行機からの落下物の不安」、「燃料タンク等基地内の危険物の爆発事故の不安」という質問について、年齢・性別の構成比率が対照群と一致するように調整を行って分析した結果、W値との著明な量反応関係が認められるとしている。
(以上、甲四三九、四四四、四六五、証人宮北隆志)」
3 三一二頁末行から三一三頁七行目までを次のとおり改める。
「 もっとも、精神的被害といっても、それ自体主観的なものであり、個別の要因に左右される面も多いと考えられるから、右各住民調査の結果等により、騒音暴露と精神的被害との量反応関係があることが相当程度窺われるものの、必ずしも明確になっているとはいい難い部分もある。たとえば、前記2(一)の住民健康調査研究会の北谷町民に対する健康度調査においては、W値によって層化した五群と対照群を加えた六群間で有意差があるかどうかを検討した結果では、明瞭な量反応関係が認められておらず、W値七五ないし九〇の群、W値九五以上の群と対照群の三群間で比較すると、一部の尺度得点・判別値に有意差が認められたというものであり、また、今回の沖縄県調査でも、W値との間に高度に有意な関連が認められたという「情緒不安定」、「抑うつ性」でもW値八五以上九〇未満の群においてオッズ比が低くなる傾向が認められ、「神経質」の低得点側に関しては、W値との間に単調な量反応関係が認められておらず、生活質調査の「うるささ」や「イライラ感」についてもW値七〇と七五が逆転している傾向が認められるのであるから(甲四四四)、なお検討の余地があるというべきである。」
4 三一四頁六行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、音に対する不快感の有無、程度は、個々人の主観的、心理的要因により異なるものであり、また、同一人であっても、時、場所、心理的状況、暴露量などにより異なるにもかかわらず、原判決は、一審原告ら個々の生活実態がいかなるものであるかを認定することなく、したがって、騒音暴露を受ける時、場所、量の違いを全く考慮することなく、一審原告らに精神的被害の発生があると認定していると主張する。
確かに、音に対する不快感の有無、程度は、一審被告が主張するように個別の要因に左右される面があることは否定できないが、前述したとおり航空機騒音とりわけジェット戦闘機の騒音は、音量が強大で、金属的な鋭い高音を発し、音質自体の不快感の程度が高い等の特色があり、これによる不快感、個々人の主観的、心理的要因を超えるものがあるというべきであるし、これに対するいらだちや不快感というレベルでみるならば、前述したとおりおおまかにいって騒音の程度が高まるにつれて被害の程度も大きくなる傾向があると認定することが可能であるから、一審被告の右主張は理由があるとはいえない。
また、一審被告は、前記沖縄県調査のうち、航空機騒音の生活及び環境の質に及ぼす影響調査における「住みよさ」についての調査結果によると、「どちらかといえば住みにくい」との回答も含め「住みにくい」側の回答の合計は、わずか16.7パーセントにすぎないことからしても、損害賠償に値するような精神的被害は発生していないと主張する。
しかしながら、右調査結果を子細にみると、騒音の激しい嘉手納町屋良と北谷町砂辺では、「住みにくい」側の回答が「住みよい」側の回答を上回っており、しかも、その理由のほとんどが「騒音がある」という理由であって、他の地域でも、「少しうるさい」を含め騒音がうるさいとする回答が相当数あること(甲四三九)からすると、「生活が便利である」、「長く住み慣れている」、「自然が豊かである」、「人情が厚い」等といった長所が相対的に上回った結果、右のような回答になったものと見るべきであるから、直ちに一審被告の主張に合理性があるとはいえない。」
五 聴覚被害(聴力障害及び耳鳴り)
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決三一四頁八行目から三五五頁八行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 三一五頁二行目の「甲A各号証」を「甲A一ないし八九号証」と改め、三一六頁九行目の「騒音性難聴」の次に「(証人山本剛夫によれば、難聴は、聴力損失の高度な場合をいうとされるが、以下、難聴と聴力損失を同じような意味で適宜使用する。)」を加える。
2 三一九頁二行目の「後記の」から七行目の「いうことができる。)。」までを「従来の研究は、主として職場騒音による労働者の聴力の保護を目的として労働衛生上の見地から行われてきたものであるが、後記山本らは、このような研究とともに環境騒音としての一般公衆に対する騒音の影響についての研究も行っている。なお、山本は、その論文で、TTS仮説を前提とし、TTSを指標として、騒音の影響を研究する立場をとっていると述べている(甲五三・二七頁)。」と、三二〇頁三行目の「三2(三)」を「三3(三)」と各改める。
3 三二二頁一〇行目の「(甲二一二)」を「(甲二一二、四六四)」と改め、末行の「七五dB(A)」の次に「の間(各両端レベルを含む)の八種類」を、三二三頁末行の「六三」の次に「(なお、昭和四七年環境庁委託事業報告書(甲二三四)では五五ないし六一と記載されている。)」を各加える。
4 三二四頁五行目の次に改行して次のとおり加える。
「(4) 右研究結果に対しては、①山本らの騒音暴露実験における騒音の暴露間隔と本件飛行場周辺における暴露間隔とは大きく異なること、②TTSには数秒以内に消滅するものや一分以内に消滅するもの、二分以上あるいは一六時間以上続くものなど様々なものがあると考えられており(乙一〇四、一〇五、一一四)、そのうち二分後のTTS(TTS2)をPTSの推測値とするのが一般的な手法であると考えられるのに(乙一〇四、一〇五、一一二ないし一一四)、右山本らが暴露一〇秒後から四〇秒間の測定値(TTS0.5)から独自の計算方法により二分後のTTS(TTS2)を求めていることは一般に承認された方法とはいえないこと、③TTSやPTSの発生には大きな個人差があるのに(乙一〇四、一一四)、右山本らの実験では被験者数が五、六名程度で少なすぎること等の問題点が指摘されている。
これに対し、山本は、実験当時の大阪国際空港の飛行間隔が二分に一回という高頻度のものであったことから、TTS2を測定する時点では、次の騒音暴露が重なることとなり、物理的にTTS2を測定することが不可能であったこと、また、山本らがTTS0.5をTTS2に変換する式によって得た補正値は、クライター(Kryter)やウォード(Ward)らの変換式によって得た補正値と整合しているうえ、五デシベル、一〇デシベルといった小さなTTSを問題とする場合、補正値は小さな値であること等から山本らの計算方法には十分合理性があること、被験者の数が少ない場合は、有意差が得られにくく、差があることを見逃す誤りを犯す確率が大きくなるが、被験者の数が少なくても有意差があるということは、積極的な意義のあるデータであると反論している(証人山本剛夫、甲四九九)」。
5 三二六頁三行目の次に改行して次のとおり加える。
「 右研究結果に対しては、実験方法に、①被験者に対する負荷騒音レベルが均一でないこと、②実験に用いられた航空機騒音は、音源対策の施されているB―七四七型機のものであり、聴力障害をもたらす三〇〇〇ないし四〇〇〇ヘルツの周波数成分が極めて少ないうえ、暴露時間が短いこと、③TTSを測定するのに適した可聴閾値が秒きざみで変動する自記オージオメーターを使用せず、通常のオージオメーターを使用していること等の欠陥があること、また、得られたデータの分析に恣意的なものがあるという批判がされている。」
6 三二六頁一〇行目の「これを」から末行の「各補正をすると」までを「これに環境騒音の間欠性を考慮して五デシベルの補正値を加えてLeq(8)七八デシベルとし、これを年間三六五日暴露に換算し、さらに二四時間暴露に換算すると」と改める。
7 三二七頁五行目の「二三〇」の次に「、証人山本剛夫」を加え、同行の次に改行して次のとおり加える。
「 右EPAの聴力保護基準に対しては、右EPAの資料が示しているLeq(8)七三デシベルという数値は、あくまでも騒音の許容基準を設定するための一応の仮定にすぎないものであって、Leq(8)七三デシベルの騒音に四〇年間さらされると五デシベル程度のPTSが生じるということが実証されているわけではないという批判がされている。
これに対して、証人山本剛夫は、EPAの聴力保護基準は、職業性騒音の八時間暴露により生じたPTSに関する実態調査の結果を基にして等エネルギー法則やTTS2仮説を使い策定したものであるから、実証的研究結果に基づいた基準であると反論している。」
8 三二八頁一一行目の「昭和三九年」を「昭和四〇年」と改め、三三〇頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「 右調査結果に対しては、測定機器の精度(五デシベルステップのもので、許容誤差はプラスマイナス二デシベルのものを使用した。)、測定者の測定能力(心理学者及びこれを専攻する学生が行った。)等測定方法に問題があり、測定された児童の左右の聴力差が大きすぎたり、騒音の影響の少ないはずの対照地区の小学校の児童にもC5ディップ状の落ち込みがみられること、聴力の落ち込みが、四〇〇〇ヘルツ等の高周波帯のみならず低周波帯においてもみられることなどの不合理な結果は、右測定方法の欠陥を示すものであるなどの批判がされている。
これに対し、通常の臨床医が行う聴力検査は、五デシベルステップのオージオメーターで行っており、測定機器の精度が格段低いとはいえないこと、また、測定の精度に多少問題があったとしても、暴露群と対照群は、同一の測定者により測定が行われているのであるから、両群の有意差を検定するには問題がないこと、左右の聴力差が認められる研究結果もある(甲二二一)との反論がされている。」
9 三三五頁一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「 右(四)及び(五)の調査結果に対しては、各調査地域の騒音レベルを調査していないこと、調査の際の検査室の暗騒音レベルがマスキング現象の起こらない暗騒音レベルの最大許容値を超えていること、正常聴力者との比較検討がされていないこと、データが中間報告書(乙一〇八)と最終報告書(乙一〇七)で異なっていることなどデータ処理に問題があること、検査成績の分析として、四〇〇〇ヘルツの聴力が、五〇〇ヘルツ、一〇〇〇ヘルツ、二〇〇〇ヘルツの三分法による平均聴力に対して低下している程度を求めているが、この方法にはなんら合理的根拠はなく、恣意的であること等の問題があると批判されている。」
10 三三五頁一一行目の「前記二2(一)(2)」を「前記二3(一)(2)」と改め、三三六頁一一行目の「グループ間においても」の次に「屋内での」を加える。
11 三三九頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「(八) 前記沖縄県調査のうち、聴力への影響についての調査結果は、以下のとおりであると報告されている。
(1) 騒音激甚地区である北谷町砂辺地区に居住する年齢四〇歳から六九歳の男女二〇七名を一次検診の対象とし、平成八年五月、実際に受診した一一五名(受診率55.6パーセント)について問診及び聴力検査を行った結果、聴力低下が高音域に認められ、かつ、中耳炎の既往歴や職業性の騒音暴露歴がない二一名を二次検診の対象として選定した。なお、右問診は、熊本大学医学部講師宮北隆志が行い、聴力検査は、同人と沖縄県立中部病院の臨床検査技師西表優子の両名が砂辺公民館に持ち込んだ移動式の聴力検査室(防音室)で、オージオメーターによる五デシベルステップ上昇法により行った。
(2) 二次検診では、うち二〇名が受診したが、その検査方法は、次のとおりである。なお、以下の①の問診と②の鼓膜視診は、沖縄県立中部病院耳鼻咽喉科部長の與座朝義医師が行い、③ないし⑥の各検査は右西表検査技師が中部病院耳鼻咽喉科の外来の防音室で行った。
① 問診
騒音暴露歴、慢性中耳炎、頭部外傷等の傷病歴、ストマイ系・カナマイ系の薬物投与を受ける可能性のある傷病歴の有無等について問診した。
② 鼓膜視診
耳鏡により鼓膜穿孔等鼓膜所見の有無を確認した。
③ 純音聴力検査
騒音性難聴は、内耳に障害が生じることにより発生するといわれており、内耳、聴神経等の感音機構に障害のある感音性難聴のうち内耳性難聴であるから、オージオメーターを用いて気導聴力検査(音が外耳、中耳等の伝音機構及び内耳、聴神経等の感音機構を経由して中枢神経に伝わるレベルを測定する検査)と骨導聴力検査(伝音機構を介さず直接内耳に刺激を与えることによって中枢神経に伝わるレベルを測定する検査)を行い、気導及び骨導の聴力レベルを測定した。なお、気導聴力検査については、0.125、0.25、0.5、一、二、三、四、六、八キロヘルツの九周波数とし、骨導聴力検査については、これらのうち0.125及び八キロヘルツを除いた七周波数について、各々一デシベルステップ上昇法で聴力レベルを測定した。
そして、気導聴力と骨導聴力に差がない場合には、伝音性難聴ではなく、感音性難聴であるといえ、差がある場合には、伝音性難聴あるいは混合性難聴(伝音機構と感音機構の双方に障害がある場合)であるといえる。
④ テインパノメトリー
この検査は、耳管狭窄症や滲出性中耳炎等の中耳の異常の有無を検査するためのものであり、耳管狭窄症や滲出性中耳炎等の中耳の異常がない場合は、ティンパノグラムはA型(外耳と内耳の空気圧差がプラスマイナス〇の時にピークを迎える型)を示す。もっとも、耳小骨連鎖離断や耳硬化症の場合もティンパノグラムはA型を示すが、正常型と比較して耳小骨連鎖離断の場合はピークが高く、耳硬化症の場合は低い。
⑤ SISI検査
感音性難聴には、内耳に障害があることによって生じる内耳性難聴と、聴神経や中枢神経等の聴覚伝導路に障害があることによって生じる後迷路性難聴とがある。前記のとおり騒音性難聴は内耳性難聴であるので、感音性難聴のうちの内耳性難聴であるかどうかを確認するために行うのが、SISI検査である。
音の強さ(物理量)の増加に対する音の大きさ(感覚量)の増加が正常聴力者のそれに比して異常に大きい現象が補充現象(リクルーメント現象)であり、これが陽性であれば、内耳性難聴であり、陰性であれば、内耳性難聴ではなく、後迷路性難聴と推定される。
今回の検査では、一キロヘルツと四キロヘルツの周波数について、それぞれ被験者の閾値より二〇デシベル強いレベルで連続的に聞かせ、その間にそれよりも一デシベル強いレベルの純音を五秒間隔で五分の一秒の間に二〇回聞かせ、この音の変化(増音)をどれ位の割合で感知できたかを検査したものであり、Jergerの分類により六〇パーセント以上の者を陽性とし、二〇ないし五五パーセントの者を疑陽性と判断した。
⑥ オージオスキャンによる聴力測定
周波数を連続的に変化させて、被験者の気導純音聴力検査を行うもので、③のオージオメーターを使った純音聴力検査よりも精密な検査を行うことができ、これによりディップの有無及びその深さを確認した。
(3) 以上のような検査を行った結果、前記與座医師らは、①鼓膜視診による所見がなく、ティンパノグラムがA型で、かつ、純音聴力検査で気導聴力と骨導聴力に差が認められず、伝音性の障害が否定されること、②SISI検査によりリクルートメント現象が陽性で、後迷路性ではなく内耳性の感音性の障害であると推定されること、③純音聴力検査及びオージオスキャンによる聴力測定の結果、高周波数音域にディップあるいはディップからさらに進行したと考えられる聴力損失が認められること、④問診により、聴力低下の原因となるような既往歴、職業性の騒音暴露歴のないことの四条件を満たすことを基本に、二次検診の成績を総合的に評価した結果、八例を航空機騒音に起因すると考えられる感音性難聴の症例と判断した。なお、右八例のうち六例がW値九五の地域に居住しており、二例がW値九〇の地域に居住している。
(以上、甲四三九、四四一ないし四四三、四六五、証人與座朝義、同宮北隆志)」
12 三三九頁六行目から三五二頁二行目までを次のとおり改める。
「(一) 一審原告らは、当審において、本件飛行場周辺の住民の中に騒音性難聴の症例を八例確認したとの前記沖縄県調査の結果を証拠として提出し、これにその他の調査研究結果等を総合すると、少なくともW値九〇以上の地域に居住する一審原告らが訴える難聴は、騒音性難聴であることが強く推定され、また、前記EPAの聴力保護基準であるLeq(24)七〇デシベル(W値八五に相当する)を併せ考えると、W値八五以上の騒音暴露地域においては、極めて高度な蓋然性をもって聴力損失の危険が発生しているというべきであるから、聴覚被害は共通被害として認定されるべきであると主張する。
右主張によれば、一審原告らは、聴覚被害あるいはその危険性を共通被害として主張し、その損害賠償を請求するというのであるが、そもそも一審原告らの一部に聴覚被害が認められることを立証しても、当該一審原告らごとの個別の被害を主張し、その損害賠償を請求するのであればともかく、これによりいわゆる身体的被害としての聴覚被害を一審原告らの共通被害として認めるわけにはいかないことは、事柄の性質上当然というべきである。一審原告らは、前記沖縄県調査の結果により少なくとも北谷町砂辺のW値九〇以上の地域に居住する一審原告らが訴える難聴は、騒音性難聴であることが強く推定されると主張するが、まずそれら一審原告らごとの難聴の態様や程度等を具体的に主張し、それを裏付ける医師の診断書等の客観的証拠によってその被害の実態を明らかにし(なお、前記沖縄県調査の結果により騒音性難聴の症例であると確認されたという八例の中に一審原告らが含まれているのかどうか明らかではないから、仮にこれが本件航空機騒音による騒音性難聴と認定されても、一審原告らに騒音性難聴があると認定されたことにはならない。)、これと航空機騒音との因果関係を個別に認定しない限り、直ちにこのような推認はできないというべきである。
もっとも、前記第四の一1のとおり、ある一定のレベルの騒音に暴露されることによって、大多数の人に一定の身体的被害が生じる客観的かつ高度の危険性が認められる場合には、前述したとおりこれをもって共通の身体的被害と認めることはできないにしても、そうした身体的被害の危険性のある状態で生活しなければならないという精神的苦痛をもって、共通の精神的被害と認めることはできると考えられる。したがって、右沖縄県調査の結果その他の学術研究、住民調査等は右のような限度で意味をもつということになる。
(二) 騒音と難聴との関係については、前記一2「騒音(航空機騒音)の一般的特色」(一)に示したとおり、一般に強大な騒音が難聴の原因となりうることは一般的な医学的知見として承認されており、強大な騒音に長年暴露されることにより生ずる職業性難聴の例が報告されていることによっても、このことは明らかである。そして、職場騒音には、騒音の音圧レベル及び周波数構成が時間的にほぼ一定である定常騒音に暴露される場合とそうではなく変動騒音あるいは間欠騒音といった非定常騒音に分類される騒音に暴露される場合の両方があるところ、職業性難聴は、右いずれの場合にも生じていること、前記山本らの研究によれば、間欠騒音である航空機騒音によってもTTSが発生しうること等が認められる(甲四五七ないし四五九、証人山本剛夫)。
そして、証人山本剛夫は、TTSを繰り返すと、ごく微小なPTSが発生し、これが積み重なってPTSとなる、定常騒音と非定常騒音の聴力損失に対する影響は、エネルギーが等しい場合には、非定常騒音の方が有害であるか少なくとも同等程度である、聴力損失の発生は騒音の特性と暴露様式等物理的要因によって規定されるから、職場騒音と環境騒音とでは質的な差異はない、騒音暴露と聴力損失との間の定量的な関係については、環境因子とその影響との関係の中では、最も解明が進んでいるといわれ、PTS、TTS(衝撃騒音を除くあらゆる騒音について)ともに平均人についてその予測式があり、騒音暴露条件が分かればPTSを予測できるし、TTS2仮説等を利用することにより、TTSからPTSを予測できる、日本産業衛生協会が昭和四四年に策定した聴力保護のための騒音の許容基準は、ISO(国際標準化機構)、CHABAが採用しているTTS2仮説を前提としてTTSを指標として用いることとし、クライターリミット(日常会話にほとんど影響を及ぼさない程度の聴力損失は許容するという考えから、クライターにより提唱された聴力損失の限界値)を前提にTTSを計算したところ、調査した国内外の許容基準最大値と最小値のほぼ中央付近に位置したことから、その値を許容基準としたものであり、TTS2仮説の間接的な証明になる、EPAの聴力保護基準であるLeq(24)七〇デシベルは、W値でいえばほぼ八五に相当する、中央公害対策審議会が昭和四六年に環境庁長官に対し、W値八五以上の地域について緊急に騒音障害防止措置を講ずべきであるとの答申をした(後に認定するとおり、環境庁長官は、右答申を受けて運輸大臣にほぼ同旨の勧告をしている。)のは、騒音性難聴という身体的影響も考慮に入れた数値である、したがって、W値八五以上の区域に居住する住民には聴力損失が発生する危険性が高いと証言する。
ところで、従来、騒音と難聴との関係については職業性難聴についての研究が積み重ねられてきたが、航空機騒音等の環境騒音の暴露による聴力への影響の問題は比較的新しい分野であり、航空機騒音により難聴となった事例についての実証的研究があるわけではない。証人山本らは、聴力損失の発生は、騒音の物理的要因により規定されるから、職場騒音と環境騒音とでは質的な差異はなく、また、職場騒音にも定常騒音と非定常騒音があること等から、職業性難聴についての研究を間欠騒音である航空機騒音についても応用できるとするようである。
しかし、この立場を前提とするものとしても、航空機騒音における騒音暴露の条件を確立することが前提であると考えられる。この点について、騒音コンターにおけるW値は、早朝、夜間において実際に発生した騒音に五ないし一〇デシベルを加算し、また、累積度数九〇パーセントに相当する飛行回数を一日の標準的な飛行回数とする方法で算出されているから、W値が八五の地域であっても、必ずしもLeq(24)のが七〇デシベルになるとは限らないという批判があり、証人平松幸三及び山本剛夫もこれを肯定している。もっとも、これに対し、前記沖縄県調査における研究委員会では、本件飛行場周辺において、右算出方法によるW値と一日ごとのWECPNLを年間を通じてパワー平均してWECPNLの代表値(標準総飛行回数の平均値)を求めるなどして算出したW値を比較したところ、大雑把にいって後者の値は前者の値より三程度低くなることが分かったとして、後者の方法で算定したW値を前提としてもW値八五から九〇未満の中央値である85.5から一八を差し引くと、Leq(24)が七〇デシベル程度になるという反論がされている(甲四三九、証人平松幸三、同山本剛夫)。
しかし、航空機騒音の聴力に対する影響を考える場合には、音の物理量が問題となるのであるから、家屋による遮音効果も当然考慮に入れる必要があるところ、後記第五の二5「周辺対策の効果」のとおり、防音工事を施さない通常の日本家屋でも一〇ないし一五デシベル程度はあり、また、個人の生活様式によっても騒音暴露の態様が異なること、さらに、一般に聴力損失は長期間にわたる騒音暴露により発生するから、本件飛行場周辺の騒音の実態を過去に遡って把握する必要があると考えられるが、この点についても正確に把握することは困難であると(なお、沖縄県調査では、過去の騒音量についても検討しているが、これは一定の時点の資料に基づいて計算したものであり、過去の騒音実態の一部にすぎない。)等を考慮に入れると、やはり職業性難聴についての研究を間欠騒音である航空機騒音について応用するには問題があるといわざるを得ず、類型的、一般的な形で予測することは困難である。
また、PTSとTTSとの関係は必ずしも明確でなく、両者の関係についての確定的な見解は存在しないといわれており(甲四六〇、四六三)、TTS2仮説も必ずしも実証された理論ではなく、これに反対する見解があり(乙二〇六)、定説にまでは至っていないことは、山本証人も認めているところである。さらに、EPAの聴力保護基準は、職業性騒音暴露と聴力損失との関係を示す実証的データに基づいているとはいっても、Leq(8)七三デシベルの騒音に四〇年間さらされると五デシベル程度のPTSが生じるということが実証されているわけではないという批判もされているところである。
また、その他の各種調査、研究についても(沖縄県調査は除く。)、それぞれ前記のような批判ないし問題点があることが指摘されており、航空機騒音の聴覚に対する影響を肯定する証拠のうち、前記3(二)の児玉省の聴力検査及び(三)の谷口堯男らの聴力検査の精度について、原判決が指摘した問題点があることは否定できない。その詳細は、原判決三四四頁八行目から三四六頁一一行目までと同じであるから、これをここに引用する(ただし、引用冒頭の(4)は除く)。また、前記3(一)の住民健康調査研究会の北谷町住民に対する健康度調査についても、原判決(三四三頁七行目から三四四頁七行目まで)が指摘するとおり、「日ごろ耳の聞こえがわるいほうですか」という質問に対し、「はい」と答えた割合が、対照群で10.6パーセントであったのに対し、W値七五ないし九〇群でも10.8パーセントであって、この二群については、少なくとも「はい」と答えた者の割合にほとんど差はない。それにもかかわらず、同研究会の報告書では三群間で反応率に有意差があると記載されているが(甲二一〇)、右対照群とW値七五ないし九〇群との関係では明確な理由が記載されていない。また、右北谷町住民に対する調査は、自覚的健康度の調査であって、聴力検査は行っていないから、聴力損失のような身体的被害を問題にする場合には、その評価には一定の限界があるというべきである。さらに、前記第三の一11記載のとおり、聴力被害の有無、程度を判断するためには、区域指定におけるW値よりも実際の騒音発生回数、騒音持続時間、各日について算出したW値のパワー平均値を考慮する方が物理的な騒音量を評価するうえでは相当であると考えられるが、本件飛行場と異なる騒音状況にある飛行場においての実地調査をもって直ちに本件飛行場周辺において、航空機騒音による聴覚被害の発生もしくはその危険性を基礎づけることはできないといわなければならない。
以上によれば、本件飛行場周辺において航空機騒音による聴覚被害が発生する客観的かつ高度の危険性があることを明確に肯定するだけの有力な学術研究や住民調査等は未だ見当たらないというべきである。
(三) ところで、原判決後の平成七年度から三か年計画で実施された前記沖縄県調査の結果によれば、前認定のとおり、本件航空機騒音により聴力損失が発生していると考えられる者が八名いることが判明したと報告されているから、もしこれが真実であるとすると、右事実は本件航空機騒音により聴覚被害が発生する客観的かつ高度の危険性があることを推知される有力な一証拠となる可能性がある。
これに対し、一審被告は、右沖縄県調査の結果には、次のような問題点があり、信用できないと主張する。
(1) 気導聴力検査は、音が伝音機構及び感音機構を経由して中枢神経に伝わるレベルを測定するのに対し、骨導聴力検査は、伝音機構を介さずに直接内耳に刺激を伝えることによって中枢神経に伝わるレベルを測定するものであるから、理論的には、骨導聴力が気導聴力より悪くなることはないはずである。しかるに、両耳について各周波数ごとに行った右聴力検査のうち、骨導聴力が気導聴力よりも五デシベル以上悪い検査結果が八症例全部について認められ(八症例全部で二六個)、中には一二デシベルの差となっているものであるから、誤差の点を考慮しても、右聴力検査はずさんである。
(2) 検査の測定値が一五デシベル以上変動するときは、検査結果の信頼性が疑わしいとみなされるが、八症例の中には、別の日に行われた第一次検診と第二次検診の検査結果が著しく変動している例があり(甲三三九に記載されている症例4)、また、同じ日に行われたオージオスキャンの検査結果と純音聴力検査の結果が八ないし一三デシベル変動している症例があり(甲三三九に記載されている症例1)、右検査が一デシベルステップで検査されていることを考慮すると、看過できない程度の変動である。
(3) 騒音性難聴は、C5ディップを示すが、八症例中四例については、そもそもC5ディップを示していないし、C5を示していても騒音性でないものもあり、本件飛行場周辺の騒音暴露の程度を勘案すると、航空機騒音に起因する難聴であると直ちに判定することはできない。
そこでまず右(1)の点について検討するのに、証拠(甲四三九、乙二〇五)によれば、確かに気導聴力と骨導聴力との間に一審被告主張のとおりの差があることが認められる。
しかし、理論上は、骨導聴力が気導聴力より悪くなることはないはずであるとしても、実際上は、聴力検査の測定誤差、骨導刺激の伝導路の複雑さに由来する骨導閾値に個人差があること、オージオメーターの骨導の〇デシベル較正法は、気導聴力レベルが〇デシベルの正常聴力者の骨導聴力を六名以上測定してその最小可聴閾値を測定し、その平均値を〇デシベルとすることにしているから、個々人を測定した暴露群には、当然変動が予測されること等から骨導聴力の方が気導聴力より悪くなることはありうるとされており、実際の検査においても、骨導聴力が気導聴力より低い閾域となることが時々あること、本件の聴力検査を行った西表検査技師(日本聴覚医学会主催の聴力測定技術講習会中級コース合格者)は、理論上は、骨導聴力が気導聴力より悪くなることはないといわれていることを知っていたことから、何度か検査をやり直したもののなお検査結果の変わらなかったものについては、骨導聴力測定の構造上やむをえない逆転現象として、その数値を記録したことが認められる(甲四六八、四六九、四七三、四八四、乙二〇二、証人與座朝義)。
右認定の事実によれば、気導聴力と骨導聴力との間に一審被告主張のような差があるからといって必ずしも検査の精度に問題があるとはいえない。
また、伝音機構が正常である者について実際に調査した結果、伝音機構が正常である者でも気骨導差があることが判明したとして、気骨導差があるというためには一五ないし二〇デシベル以上必要であるとする国内外の見解があり(甲四六九、証人與座朝義)、これが実際の測定値に基づく見解であることに照らすと、一概に否定しえないものがある。しかるところ、本件においては、八症例の気骨導差合計一一二個のうちスケールアウトした骨導聴力九個を除いた一〇三個の気骨導差の96.1パーセントがプラスマイナス一〇デシベル以内に分布し、気骨導差の最大が一四デシベルである(甲四三九、四七二、証人與座朝義)から、前記見解に照らすと、気骨導差があるとは必ずしもいえないというべきである。
次に右(2)の点については、証拠(甲四三九)によれば、確かに一審被告主張の事実があることが認められ、その原因については、必ずしも明らかではないが、第二次検診において中部病院の臨床検査技師が行った聴力検査の方法、手順(甲四八四)に格別問題があるとはいえず、一部にそのような例があったとしても、検査全体の精度に問題があるとは必ずしもいえない。
また、右(3)の点については、確かに八症例中四例(甲三三九に記載されている症例1ないし4)については、典型的なC5ディップのオージグラムを示していると認められるが、他の四例(甲三三九に記載されている症例5ないし8)については、C5ディップの進行型か加齢による聴力低下か判別しにくいオージオグラムを示している(甲四三九)。そして、後者の例については、そのオージオグラムからISOの性・年齢階級別の五〇パーセントタイル値又は九〇パーセントタイル値を差し引き、加齢による影響を補正したところ、C5ディップに近いオージオグラムを示すことが認められるが(甲四八二の1ないし4、四八三の1ないし8、弁論の全趣旨)、騒音性難聴は、騒音暴露当初には聴力低下は著明であるが、騒音暴露歴が一〇年以上になると、その進行は緩慢となり、老人性難聴では、高齢になると聴力の低下は急速となるから、両者の鑑別は、数年にわたるオージオグラムの比較によってのみ可能であるとする見解があること(乙二〇三)に照らすと、なお、これだけではC5ディップの進行型かどうか断定し難いものがある。
しかし、右のような理由から四例を除外したとしてもなお八症例中四例については、典型的なC5ディップが認められるところ、前記各種検査によれば、いずれも感音性難聴のうちの内耳性難聴であると認められる。
そして、問診の結果、典型的なC5ディップのオージオグラムを示している右四症例のうち、一例はW値九〇の地域に一九年間居住しており、他の三例はW値九五の地域に三九年ないし四〇年間居住していることが認められ(甲四三九)、相当長期間航空機騒音に暴露されていることが認められるところ、W値九五の地域である北谷町砂辺の騒音暴露状況は、前記第三の一において認定したとおりであって非常に激しいものがあり、W値九〇の地域である嘉手納町屋良の騒音暴露状況は、北谷町砂辺に次いで激しいものであると認められる。また、騒音性難聴の発生については、騒音の程度とともに、騒音に暴露される期間にも影響されるというべきであるから、この点からの考察も必要であるところ、四例中三例について三九年ないし四〇年間と極めて長期間にわたって騒音に暴露されており、本土復帰以前とりわけ昭和四〇年代のベトナム戦争当時の極めて激しかった騒音に暴露されていることになる。
なお、前記沖縄県調査によると、昭和四三年二月一三日に嘉手納村消防団で測定されたデータ及び昭和四七年一一月一〇日に北谷町砂辺で測定されたデータに基づき、過去の暴露量、TTS、二四時間等価騒音レベルを算出したところ、嘉手納村消防団における前記測定当日のW値は一〇一ないし一一〇、テスト周波数四キロヘルツにおけるTTSは最大二〇デシベルを超え、二四時間等価騒音レベルは八八デシベルとなり、北谷町砂辺における前記測定当日のW値は一〇七、テスト周波数四キロヘルツにおけるTTSは最大約一五デシベル、二四時間等価騒音レベルは八七デシベルとなるとしているが(甲四三九、証人平松幸三)、これは、いくつかの仮定をしたうえでの推定であるから、直ちにその数値を採用することはできないにしても、当時の激しい騒音状況をある程度推認させるものであるといえる。
以上によれば、少なくとも右四症例については、航空機騒音による難聴である疑いがかなりの程度あることは否定できない。しかし、騒音性難聴の特徴であるC5ディップは、騒音歴のない人にもときどきみられ、原因不明の難聴にもみられるといわれていること(乙二〇三、二〇四)、甲四三九の記載は、極めて簡潔であり、各症例に該当する人物のこれまでの具体的な生活様式、職歴、病歴等が必ずしも明確ではなく(たとえば、職場が住居と離れているのかどうか、屋内での生活時間はどうか等によって、当然騒音暴露量が異なってくるものと考えられる。)、また、本件飛行場周辺において航空機騒音と聴覚被害についての因果関係を証明するだけの十分な免疫的調査がなされているとはいえないこと等に照らすと、未だ難聴と航空機騒音との間の因果関係が証明されているとはいえず、右四症例が本件飛行場の航空機騒音による難聴であると断定することまではできない。」
13 三五二頁三行目の「(六)」を「(四)」と改め、三五三頁五行目の次に改行して次のとおり加える。
「 なお、前記沖縄県調査によれば、騒音性難聴と診断された八症例のうち六例が耳鳴りの症状を訴えているが、前述したとおり本件航空機騒音と右難聴との因果関係を認めるに足りないうえ、前記沖縄県調査においても、また、証人與座朝義の証言等によっても耳鳴りについての具体的言及がなく、耳鳴り自体の研究が進んでおらず、十分解明されていないことをも併せ考慮すると、右沖縄県調査の結果をもってしても、未だ本件飛行場に離着陸する航空機騒音が原因であるか否か不明であるといわざるを得ない。」
14 三五三頁六行目から三五五頁八行目までを次のとおり改める。
「(五) 以上の検討結果によれば、一審原告らが訴える難聴、耳鳴りが本件飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により発生したと認めることはできないのみならず、聴覚被害が発生する客観的かつ高度の危険性があると判断することも未だ困難であるというべきである。
しかし、右沖縄県調査によれば、W値九〇以上の騒音の特に激しい地域に居住する住民に、本件航空機騒音との因果関係の存在について疑いの残る難聴者がいる事実があり、また、検査精度のうえでは問題点があるにしても、前記谷口らの調査結果等によれば、航空機騒音が難聴の原因となりうることを示唆する住民調査の結果も存在している。さらに、実際にPTSを発生させる実験をすることは人道上できないという制約があることから、厳密な意味で実証することは困難であるにしても、PTSを起こした人についての過去の騒音暴露歴との関係についての疫学的調査、あるいはTTSとPTSとが関係があるとの仮説に基づきTTSについて実験研究をするなどの方法により、騒音暴露と聴力損失との定量的関係についての研究が進んでいることも事実であって、実証できていないから右のような調査、研究は信用できないと全面的に否定できない部分もあると思われる。また、前記の航空機騒音の聴覚に対する影響を否定する調査、研究についても前記のような批判ないし問題点が指摘されている。
以上に述べた諸点に鑑みると、本件において聴覚被害が発生する客観的かつ高度の危険性があるとまでは認められないとしても、一般的にいって長期にわたり激しい航空機騒音に暴露されると聴力損失が生じる可能性があることは否定しきれないと考えられるから、本件航空機騒音が少なくともW値九〇以上の騒音の特に激しい地域において難聴等の聴覚被害の一因となる可能性を払拭できないような状況下で生活しなければならない住民らが現在又は将来の聴覚の不具合の発生に不安を感じることも十分に理解できる。
したがって、右の地域に居住する一審原告らが聴覚被害発生の危険について不安を抱かざるをえないような激しい騒音下での生活を余儀なくされていることは、右一審原告らの精神的被害が大きいことを推認させる一つの事情として斟酌すべきである。」
六 その他の健康被害
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決三五五頁一〇行目から三七七頁七行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 三五六頁九行目の「甲A各号証」を「甲A一ないし八九号証」と改める。
2 三六一頁初行の「好酸球数と好塩基球数の減少率が大きくなった」を「好酸球数と好塩基球数が大きく減少し、その後増加に転じる」と改める。
3 三六四頁二行目の「ただし、」から三行目末尾までを削る。
4 三六八頁二行目の次に改行して次のとおり加える。
「(3) 前記谷口堯男らは、平成四年一〇月から一二月にかけてW値七五以上八〇未満の地域(谷口らの「騒音被害医学調査班報告書」では、「七五コンター」と表記されている。)の住民(二九七名)に対し、平成五年八月から九月にかけてW値八五以上の地域(右報告書では、「八五コンター以上」と表記されている。)の住民(八九名)に対し、それぞれ質問調査表を配付して調査した。そして、W値七五以上八〇未満の地域の住民、W値八五以上の地域の住民、非騒音地域の住民の三群に区分したうえ、各群ごとに性別、年齢別の構成比が同じになるように各五二名(男三六名、女一六名)を抽出し、調査結果を比較検討したところ、「胸がドキドキする」、「頭が痛い」、「耳鳴りがする」、「食欲がなくなる」、「疲れやすい」、「胃腸の具合が悪い」等の身体的被害を示す項目において、非騒音地域、W値七五以上八〇未満の地域、W値八五以上の地域の順に訴えの平均値の高いことが判明し、騒音レベルと身体的被害についての住民の訴えとの間には、量反応関係が認められたとしている(甲四七六の1、5、6)。」
5 三六八頁三行目の「二2(一)(2)」を「二3(一)(2)」と改める。
6 三七一頁末行の次に改行して次のとおり加える。
「(五) 前記沖縄県調査におけるTHIアンケート調査のうち、身体的自覚症状についての調査結果は、以下のとおりであると報告されている。
W値と各尺度得点との関係につき、多重ロジスティック分析をすると、身体的自覚症状の五尺度のうち「多愁訴」、「呼吸器」、「口腔と肛門」及び「消化器」の四尺度で、W値との間に高度に有意な関連が認められ、その量反応関係については、「呼吸器」及び「口腔と肛門」では、W値七五未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響がみられたが、「消化器」では、W値が九〇以上の暴露レベルの高い群において影響が認められた。
また、一二個の尺度得点から「身体的因子」を抽出し、W値との関連について検討したところ、因子得点の高い回答者の比率が、W値が七五未満の低暴露群においても、対照群と比較して増加しており、W値が九五以上の群では二倍以上に上昇しており、W値との間に高度に有意な関連が認められた。
(以上、甲四四四)」
7 三七二頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「(一) 一審原告らは、その他の健康被害についても聴覚被害と同様共通被害として主張しているものと解されるが、前述したとおり、一審原告らごとの健康被害の症状の態様や程度等を具体的に主張し、それを裏付ける医師の診断書等の客観的証拠によってその被害の実態を明らかにしたうえで、これと航空機騒音との因果関係を個別にあるいは疫学的手法により証明するのであれば格別、そうではなくこれを一審原告らに共通する身体的被害として判断することは事柄の性質上できないものというべきである。
もっとも、ある一定のレベルの騒音に暴露されることによって、ある一定範囲の者に一定の身体的被害が生じる客観的かつ高度の危険性が認められる場合には、そうした身体的被害の高度の危険性がある状態で生活しなければならないという精神的苦痛をもって、右の範囲の者に共通する精神的被害を認めることはできると考えられるので、右沖縄県調査の結果その他の学術研究、住民調査等を右のような意味で検討することとする。」
8 三七二頁二行目の「(一)」を「(二)」と改める。
9 三七三頁初行の「ほとんど唯一の」を削る。
10 三七四頁三行目の「困難である。」の次に次のとおり加える。
「さらに、原判決後に行われた前記3(五)の沖縄県調査によれば、身体的自覚症状のうち四尺度についてW値との間に高度に有意な関連が認められたこと等航空機騒音による影響を窺わせる結果が報告されている。しかし、前述したとおり、平成三年に行われた住民健康調査研究会の北谷町住民に対する健康度調査においては(右住民健康調査研究会の構成員は、沖縄県調査の構成員でもある。)、身体的自覚症状の回答と騒音暴露との間には必ずしも明確な対応関係が認められていないが、それと今回の沖縄県調査との関係については説明がなされていないこと、また、右調査は、自覚的健康度の調査であって、住民について実際に検診をしたものではなく、身体的影響を考察するうえでは、その評価に一定の限界があるというべきである。また、前記谷口調査等についても同様の限界があるうえ、同調査には、調査対象の地域における住民の選定が恣意的ではないかという問題や調査時期がW値七五以上八〇未満の地域では、一〇から一二月にかけて行われたのに対し、W値八五以上の地域では、窓を開ける機会の多い八、九月に行われていること等の問題がある。」
11 三七四頁四行目の「(二)」を「(三)」と、三七五頁一〇行目の「(三)」を「(四)」と各改める。
12 三七六頁初行の「このことに、」から三七七頁七行目までを次のとおり改める。
「このことに、前記のとおり短期的なものであるにせよ騒音の身体に対する影響を指摘する研究も少なくなく、騒音の身体に対する影響を示唆する住民調査等もあること、また、前述したとおり一審原告らが本件航空機騒音等により生活妨害、睡眠妨害及び精神的被害等の被害を受けており、騒音が一審原告らに対し相当のストレスを与えていることは経験則上明らかであること等に照らすと、一審原告らの訴える健康被害の中には、本件航空機騒音がその一因をなしている可能性のあることは否定できないと考えられ、そのような状況下で生活しなければならない住民らの不安も十分に理解できるところである。
したがって、本件航空機騒音が一審原告らに対し各種の健康被害を生じさせている客観的かつ高度の危険性があるとまでは認められないにしても、一審原告らが健康被害発生の危険について不安を感じざるをえないような騒音下で生活しなければならないということをもって、右一審原告らの精神的被害の大きいことを推認させる一つの事情として斟酌すべきである。」
13 三七七頁七行目の次に改行して次のとおり加える。
「(五) 一審原告らは、前記沖縄県調査の結果、①騒音激甚地区である嘉手納町における低出生体重児の出生率が有意に高いことが判明したから、航空機騒音がその一要因と考えられ、それにより子供の成長に悪影響を及ぼすという健康被害が発生していること、②騒音暴露と非暴露群とを比較すると、暴露群の幼児の方に問題行動が高率に認められ、風邪をひきやすい、落ち着きがない、気が散りやすい等の傾向があると主張する。
しかし、一審原告らの中にはこれら乳幼児は含まれていない(弁論の全趣旨)から、被害を考慮するとしても、その親の精神的苦痛ということになろう。もっとも、そのように解しても、一審原告らのうち誰にどのような被害が生じているのか具体的な主張はなく、一審原告らは、これについても共通被害として主張する趣旨であると解されるが、そもそもこれらは一審原告らに共通する被害とはいえないから、その内容について検討するまでもなく、共通被害の主張としても失当であるといわなければならない。」
七 その他の被害
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり訂正するほかは、原判決三七七頁九行目から三八〇頁五行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 三七九頁七行目の「⑤についても」から一一行目末尾までを次のとおり改める。
「⑤については、騒音が病気等の療養に悪影響を及ぼすことは十分考えられるところであるが、一審原告ら個々にこの点についてどのような被害があるのか主張されていないのみならず、一審原告らのうち多くの者が療養の妨害を受けていたとは通常考えられないから、これを共通被害として認めることもできない。」
2 三八〇頁四行目の「あるいは」から次行末尾までを「あるいはその一部を前記認定の各種被害の程度を判断するに際して、これを斟酌することをもって足りる。」と改める。
八 総括
以上の第四「被害」の項において検討した結果の概要は、一審原告らは、本件航空機騒音等により、その暴露されている騒音等の量や態様による程度の差はあるものの、会話妨害、電話・テレビ等の聴取妨害、睡眠妨害等の基本的な生活利益の侵害を被っているほか、これらに起因するあるいは本件航空機騒音等を直接の原因とするいらだちや不快感等の精神的被害を被っていることが認められるが、一審原告らの主張する聴覚被害、その他各種の身体的被害の発生あるいは被害発生の客観的かつ高度の危険性については、これを認めることができないというものである。
第五 騒音対策
一 総論
一審被告が講じてきた騒音対策の区分等については、原判決三八一頁九行目から三八二頁八行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
二 周辺対策
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決三八二頁一〇行目から四一四頁八行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 三八三頁末行の「制定して、」を「制定し、その政令として「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令」(昭和四七年政令一九五号)が制定され、」と改める。
2 三八七頁二行目の「9」を「11」と、三八八頁七行目の「(甲二六一の二)」を「(甲二六一の2、乙二〇七)」と各改める。
3 三九九頁四行目の「右標準時間」を「右標準期間」と改める。
4 三九二頁二行目の「現在」を「従前」と改め、一〇行目末尾の次に「なおその後、W値八五以上の区域においては、新規及び追加の各工事を同時に行うことができるようになった。」を加える。
5 三九四頁一〇行目から一一行目にかけての「昭和五〇年」を「昭和五〇年度」と改める。
6 三九五頁二行目の「その内訳をみると」から八行目末尾までを次のとおり改める。
「さらに、平成四年度から平成九年度までの間に、新規工事一二〇四世帯、追加工事一万一六八六世帯の住宅について一審被告の助成による防音工事が完成し、それらに要した補助金総額は約二七六億七九四一万円である。また、平成六年度からは、いわゆるドーナツ化現象(生活環境整備法四条によると、住宅防音工事の助成対象となるのは、第一種区域指定の際に右区域内に現に所在する住宅であるが、第一種区域がW値八五、八〇、七五と順次拡大されたことに伴い、例えばW値八〇以上の区域として第一種区域の指定がされた後に住宅を建設した場合は助成の対象にならないが、同時期に区域外に建設された住宅がその後W値七五以上の区域として第一種区域に指定された場合には助成を受けられることになる現象)を解消するため、一審被告は、防音工事の助成を行うことにし、平成九年三月末現在五二六世帯について防音工事が完成し、それに要した補助金は約一〇億六五九〇万円であり、前記新規工事及び追加工事を合計した総額は、約二八七億四五三一万円である。
そして、新規工事に関しては、右ドーナツ化現象により防音工事が行われていなかったものも含め、ほぼ希望世帯について工事が実施されているものといえるが、追加工事については、予算上の制約等から、希望世帯全部とはいかず、順次工事を進めており、その進捗状況は、一審被告の主張によれば、平成八年度末で六割強というのであり、平成五年度末で約四割であったことに照らすと、着実に進展しているとはいえ、未だ必ずしも十分とはいい難い。」
7 三九五頁九行目から三九六頁末行までを次のとおり改める。
「(六) これを一審原告らについてみると、一審被告の主張によれば、平成九年三月三一日までに一審被告の助成を受けて防音工事を完了した者(右工事の補助事業者となっている者)又は防音工事の行われた住宅に居住することによりその便益を受けた者(なお、後記第一〇「一審被告の責任及び損害賠償額の算定」三3(三)参照)は、新規工事七二八名(七一三世帯)、追加工事五一二名(四九九世帯)であって、新規工事については対象者のうち申請がない一七二名を除いて実施済みであり(なお、六名については区域外とされている。)、追加工事については、対象者のうち申請がない三八八名を除いて実施済みであり(六名については区域外)、一世帯当たりの平均補助額は、新規工事につき約一九八万円、追加工事につき約二七四万円であるという。以上をまとめると、本判決添付の別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(1総括表)」のとおりであり、また、新規、追加各工事の実施状況についての一審原告ら別の内訳(室数、補助額、補助事業者、完成日)は、同別紙(2個別表)のとおりである。」
8 三九七頁初行の「関係証拠」の次に「(乙二一〇の1、2、弁論の全趣旨)」を加える。
二行目末尾の次に「以上によれば、一審原告らに限ってみると、新規工事及び追加工事とも希望者についてはほぼ防音工事が実施されていることになり、平成四年三月三一日現在では、追加工事につき対象者のうち申請がない者を除いた一四六名が未実施であったこと(弁論の全趣旨)にかんがみると、一審被告が原判決後も住宅防音工事の助成に努力していることが認められる。」を加える。
三行目の「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三」と、四行目の「四3(二)」を「三3(三)」と各改め、一一行目の「一八八、」の次に「二一〇の1、2、5」を加える。
9 三九九頁二行目の「対象家屋数約八二〇戸のうち」を「対象家屋数は、原審口頭弁論終結時点において約八二〇戸であるが、」と同行から三行目の「平成三年度までの」を「昭和五〇年度から平成八年度までの」と、三行目の「一六四戸」を「一九〇戸」と、五行目の「約六万平方メートル」を「約六万六八三〇平方メートル」と、六行目の「約三八億三一四三万円」を「約四六億八八八二六万円」と、九行目の「平成三年度」を「平成八年度」と、一〇行目から一一行目にかけての「別紙第六「原告別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」」を「本判決添付の別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」」と、一一行目の「平成四年」を「平成九年」と、末行の「一一名」を「一五名(一審原告本人が死亡した後の移転も含む。)」と各改める。
10 四〇〇頁初行の「一三八」の次に「二一〇の2、3」を加え、七行目の「平成三年度末」を「平成八年度末」と、同行の「四万九六九六平方メートル」を「六万〇五一五平方メートル」と、九行目の「約一億六二五〇万円」を「二億七二一三万円」と各改める。
11 四〇二頁四行目の「三年度」を「八年度」と、同行の「一〇万四六二九件」を「一四万〇二四八件」と、同行から五行目の「約三億一二九一万円」を「約五億四八二一万円」と各改める。
12 四〇三頁七行目から八行目にかけての「別紙第一五「嘉手納飛行場周辺対策事業実績総括表」」を「本判決添付の別紙第一〇「嘉手納飛行場周辺対策事業実績総括表」」と、八行目から九行目の「約一八六一億六八三四万円」を「約二五〇三億七七六九万円」と各改め、一一行目の「一八二、」の次に「二一〇の1ないし16」を加える。
13 四〇四頁九行目の「当裁判所」を「原裁判所」と、四〇六頁初行の「3」を「4」と、九行目から一〇行目にかけての「追加工事の助成の進捗率は未だ必ずしも十分とはいい難いこと」までを「追加工事の助成の進捗率は、一審原告らだけをみるとほぼ希望者全員になされているが、防音室の室数にも限度があること、」と各改める。
14 四〇七頁六行目の「それによって」から一〇行目末尾までを「その便益を受けた一審原告らについて、騒音被害の一部を軽減するにとどまると評価すべきものである。そして、防音工事により一審原告らの騒音被害が解消又は軽減した場合には、違法性ないし受忍限度の判断に影響を及ぼすことになるが、一審原告らの騒音被害が個別具体的に低減しない以上、右工事を施工したこと自体をもって一般的な違法性ないし受忍限度の判断の事情として考慮することはできないというべきである。」と改める。
一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、一審原告らの被っている被害は、専ら屋内での日常生活において生じる性質のものであるから、必要に応じて防音室を密閉すれば、騒音による被害は回避しうるのであり、また、冷房の電気料金は、過度の経済的負担となるような金額ではないこと等の理由により、原判決は、住宅防音工事の騒音対策としての効果を過少評価していると主張するが、当裁判所も原裁判所と同意見であって、右主張は、余りにも住民の生活実態を軽視した主張といわざるを得ず、違法性がなくなるほど被害が軽減ないし解消されているものとは認められないというべきである。」
15 四〇八頁四行目の「四4」を「三3(四)」と改め、五行目から四一二頁五行目までを次のとおり改める。
「 そして、移転することにより一審原告らの騒音被害が個別具体的に低減しない以上、移転補償措置があることをもって一般的な違法性ないし受忍限度の判断の事情として考慮することができないことは、防音工事の場合と同様である。
一審被告は、移転補償措置制度を利用するか否かは、居住者の意思に委ねられているのであるから、これを利用せず、居住を継続するというのであれば、その居住者は、航空機騒音の影響があっても、なお当該地域に居住することによる利便を選択しているものというべきであるから、その不利益を甘受すべきものであって、この制度の利用実績如何にかかわらず、このような施策が採られていること自体が、違法性の判断に当たって十分考慮されるべきである、また、移転補償措置には、問題点があるという指摘に対しては、①一審被告が移転措置により土地を買い入れる場合、当該飛行場の指定区域内の土地等の価格が近傍類地に比べ、著しく価格が低下していると認められるものについては、飛行場の影響を最小限として価格を求めるという条件を付したうえで、不動産鑑定士に土地価格の鑑定評価を依頼していること(乙一九五)、②借地等については、借地人等から建物等の移転の申入れがあれば、生活環境整備法五条一項の規定により、敷地とは別に補償しており、また、昭和三七年に閣議決定された公共、用地の取得に伴う損失補償基準要綱(乙七一)により正常な取引価格をもって補償することになっていること、③譲渡人は、租税特別措置法により譲渡所得の特別控除が受けられることになっていること、④営業基盤の損失については、右損失補償基準要綱により補償することになっていること等、何ら問題はないと主張する。
しかしながら、一審被告主張の点を考慮したとしても、実際問題としては、必ずしも同一条件の環境下(騒音の点は除く。)のほぼ同一規模の土地建物が確保されるとは限らないし、移転することによる不利益が完全に補填されるとも限らない。のみならず、居住地を移転するかどうかは、生活の本拠を移すことになるのであるから、家族や学校、勤務先等諸々の要素を勘案して決することになるが、後記第七の二「危険への接近の法理」で述べるとおり、とりわけ沖縄においては、広大な基地が存在するため居住に適する土地が限られているうえ、先祖伝来の土地であることを重視する考え方が強く、また、地縁、血縁関係の結びつきが非常に強いといった特殊事情も考慮されるべきである。そして、そもそもこの制度を利用するか否かは、居住者の意思に委ねられており、制度自体において選択の自由を認めているのであるから、右のような諸々の事情により制度を利用しないからといって一審原告らに不利益に取り扱うことは相当でないというべきである。」
16 四一三頁初行の次に改行して次のとおり加える。
「 なお、九州芸術工科大学新田伸三教授の「植栽の理論と技術」(乙一九八)には、樹木の植栽による遮音効果について記載した部分もあるが、一方、一般に樹木は枝葉の間に空隙が多く、音はその間を回折し透過するので、騒音を防ぐ目的には著しい効果を期待することはできないとも記載されており、それ程大きい効果があるとはいえないし、遮音効果は、立木密度、配列方法、樹種、樹高、枝葉の密度等に左右されるところ、本件飛行場周辺の緑地帯においてそれについての具体的な主張はなく、実際の効果のほどは明らかではないから、右の判断を左右するものではなく、その心理的効果についても同様である。」
17 四一三頁八行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、昭和五七年度以降新たな設置がされていないのは、住宅防音工事による防音効果あるいは家屋本来の遮音機能により、一般用電話機を使用しても通話に支障がないから、新たな申請がないものと考えられると主張するが、前述したとおり、電話の聴取妨害を訴える者が相当数いる事実に照らすと、必ずしも十分な効果があがっているとはいえないというべきである。」
18 四一四頁八行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、学校、病院、診療所、学習等供用施設等に対する防音工事の助成は、航空機騒音による障害を防止又は軽減することを直接の目的とするものであり、これによりかなりの被害を解消することができるから、間接的な対策とみるのは相当でないと主張する。しかし、右対策は、それだけをとりあげれば、騒音による被害を防止又は軽減することを直接の目的とするともいいうるが、一審原告らが住居を中心に被っている前認定の各種生活妨害、睡眠妨害、精神的被害に対し、その効果の面からみると、やはり間接的効果にとどまるといわざるを得ない。
また、一審被告は、これらの周辺対策は、周辺住民の生活の安定及び福祉の向上を図るものであり、これにより、周辺住民の騒音源である本件飛行場に対する好意的評価を高め、精神的被害の軽減ないし解消につながるから、違法性の判断にあたり十分考慮すべきであると主張する。しかしながら、確かに一般論としては、騒音対策の内容、程度如何により周辺住民のうるささに対する反応が異なってくることは考えられるが(乙一九六、一九七)、本件において、一審原告らの本件飛行場に対する見方に厳しいものがあることは、前記第四の四3において認定したとおりであって、一審被告の主張するような効果が全くないとまではいえないにしても、それほど大きく評価することはできない。」
三 音源対策と運航対策
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決四一四頁一〇行目から四二四頁一一行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四一七頁二行目の「しかし、」から四行目末尾までを「しかし、エンジン調整音の中には、離陸前のエンジン調整音が含まれているが、これについては消音装置を使用することができないものであり(証人大田長秀)、航空機の誘導音等をも含めた地上音が右消音装置設置後に全体としてどの程度低減しているかについては、これを客観的に明らかにする確たる証拠はない。」と改める。
2 四一九頁一〇行目の「夜間」の次に「及び早朝」を加える。
3 四二〇頁九行目の「平成二年九月までに一四回」を「平成七年三月までに一六回」と、一〇行目の「七回」を「九回」と各改める。
4 四二一頁九行目の「(甲一、」から一〇行目末尾までを「(甲一、九一の75、81、一一一ないし一一四、三四七、三五四の1、2、乙七四、証人大田長秀、同粟国正昭)。」と改め、一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「(三) 日米両国政府は、平成七年一一月に「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)を設置し、SACOは日米合同委員会とともに協議を行った結果、平成八年三月二八日、日米合同委員会において「嘉手納飛行場における航空機騒音規制措置」が合意された。その概要は、①進入及び出発経路を含む飛行場の場周経路は、できる限り学校、病院を含む人口稠密地域上空を避けるよう設定する、②本件飛行場近傍(飛行場完成区域として定義される区域、すなわち、飛行場の中心部より半径五陸マイル〔八キロメートル〕内の区域)において、航空機は、海抜一〇〇〇フィート(三〇五メートル)の最低高度を維持する、③本件飛行場の場周経路内で着陸訓練を行う航空機の数は、訓練の所要に見合った最小限に抑える、④二二時から翌朝六時の間の飛行及び地上での活動は、米国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限されるなどというものである(弁論の全趣旨)。」
5四二一頁一一行目の「(三)」を「(四)」と改める。
6 四二二頁三行目から四行目にかけての「本件飛行場の基地としての機能に支障をきたさない限度で、」までを「本件飛行場が前記第二章第二の一3(六)のとおり空軍を中心に海軍及び海兵隊等が共同使用する米軍の東アジア地域における重要基地であることから、基地としての機能を維持することを優先し、これに支障をきたさない限度で、」と、四行目及び五行目の各「運行」をいずれも「運航」と各改める。
7 四二二頁九行目の「疑問の余地がないではない。」の次に次のとおり加える。
「さらに、平成八年三月の前記騒音防止協定締結後も、騒音が減少したとの実感はなく、逆に締結後の四月及び五月は騒音発生回数が増えているとの指摘もある(証人伊波昭夫)。そして、甲第四八九号証(文書自体からは作成者が明らかではないが、甲第四一一号証及び乙第八〇号証と比較すると、嘉手納町の作成であると認められる。)によれば、平成八年四月以降七月までの月別騒音発生回数を前年のそれと比較すると、嘉手納町屋良地区においては、四月、五月はそれぞれ五一九回、二二八回と増加し、六月、七月はそれぞれ三七八回、九一三回と減少しており、嘉手納町嘉手納地区においては、四月ないし六月はそれぞれ五二二回、八三三回、一〇二回と増加し、七月は九二、回と減少していることが認められ、わずか四か月間ではあるものの、必ずしも騒音防止協定の効果が出ているとはいえない。」
8 四二四頁初行の「運行」を「運航」と改め、六行目の「したがって、」の前に「一審被告は、米軍の航空機の運航に支障を及ぼさない限度であらゆる機会を通じ配慮を要請するなどできる限りの努力をしていると主張するが、同じ米軍基地である厚木飛行場周辺の航空機騒音の軽減措置が日米合同委員会で承認されたのは昭和三八年であり(甲三五六の1)、横田飛行場については昭和三九年であって(甲三五六の2)、沖縄の米軍基地問題がクローズアップされた最近においてようやく騒音防止協定が締結されたことなどを考慮すると、これまでの取組みが十分であったとは必ずしもいえないというべきである。」を加える。
第六 違法性(受忍限度)
一 総論
当裁判所も、違法性(受忍限度)の判断については、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の経過及び状況、その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察して判断すべきであると考えるものであるが、その詳細は、原判決四二五頁二行目から四二九頁二行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
ただし、四二七頁一一行目の「考えられる」から末行までを「考えられ、本件に則していえば、一審原告らの被害と本件飛行場の使用及び供用の公共性ないし公益上の必要性の比較検討をするに当たっては、一審原告らが本件飛行場の存在によって受ける利益とこれによって被る被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような被此相補の関係が成り立つかどうかの検討がなされなければならない(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号、同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁、同昭和六二年(オ)第五八号、平成五年二月二五日第一小法廷判決・民集四七巻二号六四三頁)。」と改める。
二 公共性
この点についての当裁判所の判断は、次のとおり付加するほかは、原判決四二九頁四行目から四三四頁四行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四三〇頁九行目の「非常に程度の高いものであり、」の次に「一審原告らがこれを受忍しなければならないような軽度の被害であるということはできず、また、被害を受ける地域住民は、かなりの多数にのぼっているものであり、」を加える。
2 四三四頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「 一審被告は、本件飛行場及び同所での米軍機の運航が、わが国の防衛に占める重要性に照らすと、国や公共団体の行うその他の行政作用とはその性質を全く異にし、その公共性には格段の優先順位が認められてしかるべきであるところ、本件においては、一審原告らの被侵害利益は、日常生活上の不利益にとどまるから公共性が極めて高度であることは、十分に斟酌されなければならないと主張する。
しかしながら、右に述べたとおり民間飛行場のほか幹線鉄道や幹線道路が国民の生活や経済活動において多大な便益を提供し、また、その他の公共部門の活動の役割も極めて重要であること等を考慮すると、本件飛行場の特殊性を考慮に入れても、受忍限度の判断にあたって右民間飛行場等の場合とそれほど較差はないというべきである。」
三 環境基準
この点についての当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加するほかは、原判決四三四頁六行目から四四九頁初行までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四三四頁九行目の「公害対策基本法」の前に「旧」を加える。
2 四四七頁初行の「都市計画法上の」を「平成四年法律第八二号による改正前の都市計画法上の」と改め、四行目末尾の次に「なお、平成四年法律第八二号により都市計画法八条一項一号が改正されているが、弁論の全趣旨によれば、右沖縄県知事の指定に変更はないことが認められる。」を加える。
3 四四七頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「(六) 旧公害対策基本法は、平成五年一月に廃止され、環境基本法(平成五年法律第九一号)が新たに公布、施行されたが、同法一六条一項において、旧公害対策基本法九条一項と同様に、政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めることと規定されている。そして、環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成五年法律第九二号)二条において、昭和四八年環境基準は、右環境基本法一六条一項の規定により定められた基準とみなされている。」
四 本件における受忍限度の基準値
この点についての当裁判所の判断は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決四四九頁三行目から四七一頁二行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四四九頁七行目の「まず、」から四五一頁二行目までを次のとおり改める。
「 まず、侵害行為の態様とその程度については、前記第三「侵害行為」において詳細に認定、判断したとおりであり、一審原告らの住居における騒音の程度を認定するに当たっては、基本的に生活環境整備法上の区域指定におけるW値によるのが相当というべきである。」と改める。
2 四五一頁三行目の冒頭に「なお、繰り返しとなる点もあるがこれを敷術すると、」を加える。
3 四五二頁一一行目の「以上、」の次に「ある地点が定常的に右指定のWECPNL値より極度に低い値であることが明らかに認められるような場合(本件においてはこのような事例はない)を除いて、」を加える。
4 四五三頁五行目の「9」を「11」と改める。
5 四五五頁二行目の次に改行して次のとおり加える。
「 なお、前記第三の一「航空機騒音」において認定した測定地点における各日について算出したWECPNL値のパワー平均値、騒音発生回数、騒音持続時間等の測定結果の位置付けについても、先に判断したとおりである。」
6 四五五頁三行目から四五八頁二行目までを削る。
7 四五八頁三行目の「3」を「2」と、一一行目の「9」を「11」と各改める。
8 四五九頁六行目から七行目にかけての「都市計画上」を「都市計画法上」と、一一行目の「せいぜい、」から四六〇頁三行目末尾までを「本件においては適用できないというべきである。」と、八行目の「かなりの程度に達成されてはいるが、」を「対象者中申請がないものを除き実施済みであるが、」と各改める。
9 四六三頁八行目から四七一頁二行目までを次のとおり改める。
「3 そこで、本件における具体的な受忍限度の基準値を検討することとするが、まず、昭和四八年環境基準が、前記三「環境基準」1(四)のとおり、類型Ⅰの地域においてはW値七〇以下、類型Ⅱの地域においてはW値七五以下を基準値として定めていることが重視されなければならない。もとより右基準は、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準(旧公害対策基本法九条一項、環境基本法一六条一項)であって、国が航空機騒音に関する総合的な施策を進めるうえで達成することが望ましい値を設定した行政上の指針であるから、当然に私法上の受忍限度を画するものではないが、前記三「環境基準」1、2のとおり、右基準値は、国自らが生活妨害等に対する住民の反応の程度についての調査研究の結果に基づき、輸送の国際性、安全性等の公共性に類する事情等受忍限度の判断に当たって考慮されるべき要素と似かよった要素をも総合的に考慮して基準を設定しているものであるから、受忍限度の決定において極めて重要な意味を持つものというべきである。
また、生活環境整備法四条によれば、国は、「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めた」区域を第一種区域と指定し、防音工事の助成措置を採ることとしているところ、本件飛行場周辺の地域において、第一種区域指定の基準となるW値は当初八五とされ、その後八〇、次いで七五に改正されているが、このことは、取りも直さず国がW値七五以上の区域について「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めた」ことを示すものであって、これも受忍限度を決するに当たって考慮すべき重要な要素というべきである。
ところで、昭和四八年環境基準において、類型Ⅰの地域と類型Ⅱの地域により基準値に差があるが、前記生活環境整備法上の区域指定においては、右のような区分はない。しかし、前記昭和四六年五月二五日の閣議決定による「騒音に係る環境基準」において、地域の類型ごとに基準値が区分されており、昭和四八年環境基準もそれに準じて区分されたことが認められるところ、たとえば住居専用地域と商工業地域では騒音発生の量、程度が異なり、そこに居住する者もそのことを認識したうえで居住するのが通常であるから、地域の特性により基準値に差異を設けることには十分合理性があるというべきであって、そのような見地からみるならば、類型Ⅱの地域は類型Ⅰの地域よりも受忍限度が高まるとみるのが相当である。
以上の点に加え、本件飛行場は、昭和五三年五月から第一種空港相当として扱われたことにより、昭和四八年環境基準が告示されてから一〇年以内である昭和五八年一二月二六日までにWECPNL値を七五未満とし、七五以上となる地域においては屋内で六〇以下とすることが中間改善目標として定められ、一〇年を超える期間内に可及的速やかに右基準を達成すべきものとされ、その後前記のとおり騒音対策も講じられてきたが、現時点での騒音状況は、前認定のとおりであって、環境基準値が達成されているとはいい難いこと、なお、この点につき、やや旧い資料ではあるが、環境庁大気保全局が右達成状況を調査したところ、昭和五七年度の県の測定結果によると、屋外においてW値七五を超える地域があると指摘されていること(甲二九一の1、2)、一審原告らは、本件飛行場に離着陸する航空機の騒音等により、身体的被害までは被っていないとはいえ、比較的低暴露の地域においても、他人と円滑に会話をかわし、十分な睡眠や休養をとるなど人間らしい生活を享受する利益を侵害されたこと等により精神的苦痛を被っていること等これまでに述べてきた侵害行為の態様、一審原告らの受けている被害の性質や程度、その他本件に顕れた諸般の事情を総合的に考慮すると、本件における受忍限度を画する数値としては、一審原告らのうち、類型Ⅰの地域内に居住している者についてはW値七五以上、類型Ⅱの地域内に居住している者についてはW値八〇以上の数値を採用するのが相当というべきである。
なお、一審被告は、住宅防音工事の防音効果は計画防音量以上であって、第一工法が施工された建物では三〇デシベル以上の防音量が得られているから、騒音のパワー平均値がW値九〇以下であれば、住宅防音工事が施工されている屋内では、W値六〇以下となり、環境基準が達成されているといえるところ、本件飛行場周辺の騒音コンターのW値九〇以上の区域であっても実際に騒音のパワー平均値が九〇を超えるのはわずかであるから、屋内環境としては防音工事が施工されている限りほぼ全区域において環境基準が達成されていると主張する。
しかしながら、昭和四八年環境基準において定められた基準値は、本来屋外において達成すべき数値として定められたものであり、その達成に長期間を要することから中間改善目標の屋外値が達成できない場合の次善の策として屋内値が定められたものであると解されること、また、閉め切った防音室内で、しかも、全部の部屋に防音工事が施工されているわけではない状況で生活することは、非現実的であり、そのような生活を余儀なくされることは精神的苦痛を伴うものであるから、外出したり、窓を開けたり、他の居住空間に移動するのは当然であること等を考慮すると、受忍限度を判断するに当たって屋内値を重視するのは相当ではない。」
第七 地域性の法理及び危険への接近の法理
一 地域性の法理
この点についての当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決四七一頁五行目から四七四頁五行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四七一頁末行の「開設以降」の次に「であり」を加える。
2 四七三頁五行目の「9」を「11」と改める。
九行目の「また、」から四七四頁初行の「認定するとおりである。)」までを「また、証拠(甲二、一〇、一九〇)及び弁論の全趣旨によれば、昭和四〇年七月に嘉手納村爆音防止対策期成会(昭和四三年一二月に基地対策協議会に改称)が結成され、昭和四二年九月には同会の代表団が外務省に日米協議委員会で騒音問題を取り上げるよう要請を行ったこと、昭和四一年一二月には嘉手納中学校の防音工事が竣工するなど順次本件飛行場近隣地域の小中学校の防音工事が行われるようになったこと、昭和四二年一月にはコザ、石川保健所長代理による騒音の人体に及ぼす影響調査(健康調査)が実施され、昭和四二年五月ころから自治体等による騒音調査が実施されたこと、昭和四二年一〇月には参議院沖縄調査団が騒音被害状況調査のため嘉手納村を訪れたことなどの事実が認められ、以上の事実によれば、本件飛行場周辺では、昭和四七年五月一五日の本土復帰前から、本件航空機騒音による被害を問題として、関係機関による騒音影響調査や騒音低減を求める社会運動も既に起こっていることが認められる。」と改める。
二 危険への接近の法理
一審被告は、遅くとも沖縄のいわゆる本土復帰の日である昭和四七年五月一五日以降に本件飛行場周辺地域に居住を開始した一審原告らについては、航空機騒音等の存在を認識しながらあえて住居を選定したものであって、航空機騒音等の被害の容認があったものと推定されるから、いわゆる危険への接近の法理の適用により、航空機騒音等による被害を受忍すべきであり、その損害賠償請求は否定されるべきであると主張する。
そこで検討するのに、危険への接近の法理を適用するためには、まずもって、住民が危険の存在を認識しながらこれによる被害を容認してあえて危険に接近したことが必要であり、これに被害の性質、程度、公共性等他の諸事情が相まって加害者の免責が認められるものと解される。
本件において被害の容認があったかどうかについてみるに、これに関連する事情として以下のような事実が認められる。
1 本件飛行場は、旧日本陸軍が昭和一九年九月に中飛行場として開設したが、昭和二〇年四月沖縄本島に上陸した米軍がこれを占領し、使用するようになり、戦後沖縄県がアメリカ合衆国の施政権下に置かれたことから、引き続き同国が管理、使用することになった。その後、沖縄の本土復帰に先立ち、一審被告が「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律(昭和四六年法律第一三二号)」により本件飛行場の使用権原を取得したうえ、本土復帰に伴い、安保条約及び地位協定による施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供し、同国が地位協定三条一項に基づき、運営、管理している(原判示引用の前記第二章の第二の一のとおり)。
2 本件飛行場周辺地域は、戦前は農村地帯であったが、戦中から戦後にかけて米軍による占領、基地建設が行われ、戦前に右地域に居住していた住民は、収容所から順次米軍により居住を許可された基地外の地域に移動した。しかし、元の居住地に戻れない住民は、やむを得ず他の地域で生活を始めたものの、沖縄においては地縁、血縁意識が強いことからできるだけ元の居住地の近くに居住しようとする例が多かった。そして、農地が減少し、他にみるべき産業がなかったこともあって、基地関連の仕事を求めて本件飛行場等基地周辺とりわけ沖縄市(当時コザ市)を中心にして狭い地域に人や事業所が集中し、都市化が進行した(甲八九、一八八ないし一九〇、三八二、三八四、三八五の1ないし9、三八六の1、2、三八七、三八八、三九一、証人石原昌家)。
3 沖縄県には、平成四年三月末現在で、県下五三市町村のうち二五市町村にわたって四五施設、二万五〇一二ヘクタールの米軍基地が存在しており、県土面積(二二万六四八三ヘクタール)の一一パーセントを占めているが、これを沖縄本島だけでみると、20.1パーセントを占めていることになる。そして、その分布状況をさらに細かくみると、沖縄本島地域(離島も含む。)の北部地区に最も多く、全体の69.8パーセントが集中しており、地域の面積の21.2パーセントを占め、次いで本件飛行場のある中部地区が全体の二九パーセントを占め、地域の面積の26.3パーセントが基地で占められている。また、南部地区の基地面積は、全体の0.8パーセント、地域の面積の0.6パーセントである(甲三四七)。
次に、本件飛行場周辺の市町村面積に占める米軍基地面積の割合をみると、次のとおりである(①ないし④は、平成四年三月末現在、⑤及び⑥は、平成元年四月一日現在の数字である。甲三四七、四〇〇)。
陸地面積(ha)基地面積(ha)
基地の割合(%)
①沖縄市 四八八一 一八〇一
36.9
②嘉手納町 一五〇四 一二四七
82.9
③北谷町 一三六二 七七二
56.7
④読谷村 三五一七 一六四八
46.9
⑤石川市 二一〇三 一七六
8.37
⑥具志川市 三〇五七 二九九
9.78
4 沖縄県の人口は、平成八年一〇月末現在で約一二八万人、そのうち沖縄本島は約一一七万人である。沖縄県全体の人口密度は一平方キロメートル当たり五六六人であるが、市町村別でみると、那覇市の七七六七人を筆頭に、浦添市が五一五〇人、宜野湾市が四三〇五人、与那原町が三五〇五人、沖縄市が二三七七人等沖縄本島中南部の市町村の人口密度が高く、北部地区は同地区の中心地である名護市でも二五九人と低く、沖縄本島中南部に人口が集中している。また、事業所数は、圧倒的に那覇市が多く、次いで沖縄市、浦添市、宜野湾市、名護市の順であるが、これについても沖縄本島中南部に集中している(顕著な事実)。
以上認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件飛行場のある沖縄本島の面積は狭く、それに比べ人口が多いうえ、事業所数の多い本島中南部に集中している。そして、沖縄県における米軍基地は、沖縄本島地域の北部及び中部地区に集中しており、しかも、中部地区においては、本件飛行場、嘉手納弾薬庫、普天間飛行場等の重要施設が集中している(甲三四七)うえ、嘉手納町では、実に町の陸地面積の約八三パーセントが基地で占められ、沖縄市、北谷町、読谷村においてもそれぞれの陸地面積の約三七パーセントないし約五七パーセントと相当広い面積を基地が占めていることが分かる。また、本件飛行場周辺において生活環境整備法上の区域指定がなされている区域をみると、一審原告ら居住地である沖縄市、嘉手納町、北谷町、読谷村、石川市、具志川市のすべてにまたがっている(甲一八、乙六〇)。さらに、北谷町の南側に接した市街地である宜野湾市にも普天間飛行場があり(同市の陸地面積の約三三パーセントが基地である〔甲三四七〕。)、同飛行場の騒音問題等がある。
したがって、沖縄本島中部地区において、本件飛行場の騒音による影響を受けずに居住できる地域はもともと極めて限られているというべきであるから、本件航空機騒音の影響を受けない地域を選択しようにも選択の余地は少ないということができ、このことは、騒音対象区域内を移動している一審原告らが多いことでも明らかである。
また、本島北部地区は、その多くを森林、原野が占めており、もともと居住に適した土地に乏しく、就業先も限られている。さらに、浦添市以南の比較的騒音問題の少ない本島中南部地区は、那覇市及びその周辺市町村が市街地を形成しているものの、農用地が多い。そして、雇用機会の多い那覇市、浦添市等の人口密度は高く、地価も高い。しかも、沖縄県には鉄道がなく、公共交通機関としてはバスしかないため交通渋滞等交通事情が悪く、通勤、通学の便がよいとはいえない(顕著な事実)。したがって、騒音問題のない本島の北部、南部に居住することも選択肢の一つとして考えられるが、実際問題としては、必ずしも選択の幅が広いとはいえない。
また、一審原告らが、本件飛行場周辺地域に転入した事情についてみるに、本件飛行場の近辺に居住することによって得られる何らかの利益を期待し、これを代償として本件飛行場周辺地域に転入したものではなく(本件においてそのような個別具体的な主張立証はない。)、住宅の売買価格、賃料、通勤、通学の利便、資力等固有の生活利益に基づいて本件飛行場周辺に住居を選定し、あるいは婚姻、相続による転入、肉親の看護、扶養のため実家に戻り、さらには沖縄においては地縁、血縁関係の結びつきが強く、地元へ回帰する意識が強いことから本件飛行場等の基地が建設される前にあったもとの居住地あるいはその近くに転入するなどしたものであって(甲A各号証、一審原告本人〔原・当審〕)、被害を容認するような動機は認められない。
以上のような事情により一審原告らが住居を選定したことを考慮すると、たとえ航空機騒音等の存在を認識しながら住居を選定したからといって、直ちに右被害の容認を推認することはできず、また、本件全証拠によっても、右被害の容認を推認させるような特段の事情は認められないから、一審被告の免責を認めることはできないというべきである。
もっとも、一般的に、ある者が騒音等による被害を容認までしなくとも、被害が存在することを認識し又は過失により認識していなかった場合に、その被害が精神的苦痛ないし生活妨害のごときものであって直接生命、身体にかかわるものではなく、騒音発生源に公共性が認められる場合には、居住開始後に騒音の程度が格段に増大したなどの特段の事情が認められない限り、損害の公平な分担という損害賠償法の理念あるいは過失相殺の法理の類推等により損害賠償額の減額をするのが相当とする場合もありうると考えられる。
しかしながら、前述したとおり、沖縄本島の住宅事情、雇用情勢、交通事情等を考慮すると、本島全体をみても居住地域が限られており、とりわけ本件飛行場周辺の中部地区においては、本件航空機騒音の影響を受けない地域を選択する余地が少ないという特殊事情が認められ、このような場合には、そもそも損害回避の可能性に乏しいというべきであり、一審原告らが本件飛行場周辺に転入してきた事情についてもそれ相当の理由があり、非難すべき事情は格別見当たらないこと、前述したとおり一審被告は、本件飛行場周辺において、一〇年を超えて可及的速やかに環境基準を達成することとされているにもかかわらず、未だ達成されていないことをも併せ考慮すると、本件においては、損害賠償額の減額をする根拠を欠くといわざるを得ない。
したがって、一審原告らの請求の全期間にわたり、危険への接近の法理による減額は行わないこととする。
第八 消滅時効
当裁判所も、第一次訴訟については本訴提起の日であることが記録上明らかである昭和五七年二月二六日から、第二次訴訟については同様の日である昭和五八年二月二六日から、第三次訴訟については同様の日である昭和六一年九月三〇日から、それぞれ三年前の応答日より前に発生した被害についての一審原告らの損害賠償請求権は、民法七二四条所定の三年の期間の経過により時効消滅したものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決四八一頁七行目から四八七頁一〇行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
一 四八二頁六行目から七行目にかけての「航空機騒音等による原告らの被害が」を「直接の身体的被害ではない前認定の航空機騒音等による生活妨害、睡眠妨害、精神的被害といった一審原告らの被害は」と、一一行目から末行にかけての「四1」を「三3(一)」と各改める。
二 四八三頁六行目の「本件被害」を「本件航空機騒音等による被害」と、九行目から一〇行目の「前記第七の二「危険への接近の法理」で説示したとおり」を「前記第三の一「航空機騒音」及び第七の一「地域性の法理」で説示したとおり」と各改める。
三 四八五頁一〇行目から一一行目の「なお、」から末行の「解される。―が、」までを「なお、本土復帰の時点以降の米軍の不法行為については、民事特別法によって一審被告に対し損害賠償請求をすることができること、換言すると民事特別法の存在それ自体については、いわゆる法の不知の問題であり、民法七二四条の認識の対象には含まれないと解されるが、」と改める。
第九 将来の損害賠償請求に係る訴えの適法性
当裁判所も、一審原告らの損害賠償請求のうち、当審の口頭弁論終結の日の翌日である平成一〇年一月一七日以降に生ずる損害(この損害の賠償請求に関する弁護士費用相当損害を含む。)の支払いを求める部分は、将来の給付の訴えとして権利保護の要件を欠き不適法であると判断するものであるが、その理由は、原判決四八七頁末行から四九〇頁三行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
ただし、四八七頁末行の「民訴法二二六条は、」を「民訴法一三五条〔旧民訴法二二六条〕は、」と、四八九頁末行から四九〇頁初行にかけての「本件口頭弁論終結の日の翌日である平成四年一二月四日」を「当審口頭弁論終結の日の翌日である平成一〇年一月一七日」と各改める。
第一〇 一審被告の責任及び損害賠償額の算定
一 当裁判所は、一審被告は、沖縄県知事が昭和六三年二月一六日に指定した類型Ⅰの地域については、生活環境整備法上の区域指定においてWECPNL七五以上として告示された区域、類型Ⅱの地域については、WECPNL八〇以上として告示された区域に居住し、又は以前居住していた一審原告らに対し、民事特別法二条に基づき、本件航空機騒音等によって被った損害を賠償すべき義務があると判断するものである。
二 一審被告の責任についての当裁判所の判断は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決四九〇頁五行目から四九一頁九行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四九〇頁五行目の「一」を削り、六行目から七行目にかけての「生活環境整備法上の」から九行目の「地域)」までを「沖縄県知事が昭和六三年二月一六日に指定した類型Ⅰの地域については、生活環境整備法上の区域指定においてWECPNL七五以上として告示された区域、類型Ⅱの地域については、WECPNL八〇以上として告示された区域」と改める。
2 四九〇頁一〇行目の「その後」の前に「、」を加える。
三 本件の損害賠償額の算定についての当裁判所の判断は、次のとおり加除、訂正するほかは、原判決四九一頁一〇行目から五二三頁三行目までの記載と同じであるから、これをここに引用する。
1 四九一頁一〇行目の「二」を「1」と、四九二頁二行目の「参考にして」を「基準にして」と各改め、四行目の「原告らが、」の次に「WECPNL七五以上八〇未満の地域(昭和五八年三月一〇日の防衛施設庁告示で第一種区域とされた地域。ただし、そのうち類型Ⅰの地域に限るが、WECPNL八〇以上の地域については類型Ⅱの地域も含む。)、」を加える。
2 四九三頁初行冒頭から四行目末尾までを「2 当事者間に争いのない事実、証拠(甲三一六、三一八、三一九、三二一、三二二、三二四ないし三二七、三三〇ないし三三二、三三四ないし三三六、四七七の1ないし6、五〇一の1ないし7、五〇二の1ないし38、五〇三の1ないし3、五〇四の1ないし33、五〇五、五〇六の1ないし10、五〇七の1、2、五〇八の1ないし10、五〇九の1ないし3、五一〇の1ないし14、五一二の1ないし10、五一三、五一四の1ないし4、五一五ないし五一八の各1、2、五一九、乙一八九及び一九〇の各1、2、二一〇の2、二一一、二三四、二三五その他本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」の「備考」欄に揚げた証拠。)」と、五行目の「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三」と、六行目の「八〇以上」を「七五以上(ただし、WECPNL七五以上八〇未満の地域については類型Ⅰの地域に限る。)」と各改め、九行目の「WECPNL」の次に「七五以上八〇未満(類型Ⅰ)を75、同」を加え、一一行目の「六」を「5」と改める。
3 四九四頁初行の「八〇未満」を「七五の類型Ⅱの地域あるいは七五未満」と改め、三行目から四行目にかけての「危険への接近の法理の適用の有無及び」を削り、五行目の「3」を「3(三)」と、同行の「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」」と、七行目の「四1」を「3(一)」と、末行の「に照らし」を「を考慮して」と各改める。
4 四九五頁二行目の「2」を「(二)」と改め、六行目から九行目までを次のとおり改める。
「 なお、前述したとおり、地域類型ごとに受忍限度が異なるものとし、類型Ⅱの地域については、受忍限度をW値八〇以上としたが、受ける被害自体は同一であって、W値八〇以上の騒音レベルにおいて地域類型により慰藉料額に差を設けることは必ずしも相当ではないから、W値八〇以上の区域についての慰藉料額は同額とする。
(1) WECPNL七五以上八〇未満の地域(類型Ⅰの地域のみ)
二〇〇〇円
(2) WECPNL八〇以上八五未満の地域(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも)
五〇〇〇円
(3) WECPNL八五以上九〇未満の地域(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも)
九〇〇〇円
(4) WECPNL九〇以上九五未満の地域(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも)
一万二〇〇〇円
(5) WECPNL九五以上の地域(類型Ⅰ、Ⅱの地域とも)
一万八〇〇〇円」
5 四九五頁一〇行目から五〇五頁初行までを削る。
6 五〇五頁二行目の「(二)」を「(三)」と改め、六行目から五一五頁三行目までを次のとおり改める。
「(1) 住宅防音工事の補助事業者となっている一審原告らについては、前記三2のとおり本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」の「居住地」欄記載の居住地に居住し、又は以前居住していたことが認められるから、証拠上当該防音工事完成時における右居住地と異なる場所に存在する建物に防音工事を行ったことが明らかになったような場合は別として、そうでない限りは当該防音工事完成時における右居住地において防音工事を行ったものと認めるのが相当であり、右時点以降に居住した期間について慰藉料額を減額することとする。なお、弁論の全趣旨によれば、本判決添付の別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」の「提訴時住所」欄記載の住所は、単に一審原告らの提訴時住所を記載したにとどまり、右住所上の建物について防音工事が行われたとの趣旨の記載ではないものと認められる。
(2) 住宅防音工事の補助事業者の親族に該当する一審原告ら(右別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」の備考欄に「妻」、「長男」等と記載されているのは、当該一審原告が補助事業者の妻や長男に該当するという趣旨である。)については、当該防音工事がなされた建物において当該親族と同居していたと認められる場合に住宅防音工事による便益を受けたものと認めるのが相当であるから、当該防音工事完成時以降に右防音工事のなされた建物の存在する右別紙第三「損害賠償額一覧表」の「居住地」欄記載の居住地に居住していたと認められる期間について慰藉料額を減額することとする。
(3) 住宅防音工事の補助事業者から建物を賃借している一審原告ら(右別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」の備考欄に「借家人」と記載されている一審原告ら。なお、一審原告島野功〔同番号五四六〕については、右備考欄に「大家」との記載があるが、弁論の全趣旨によれば、これは同一審原告が補助事業者に対して借家人の関係にたつとの趣旨であると認められる。)については、弁論の全趣旨によれば、賃貸人が借家人である一審原告の同意を得て、防音工事の補助事業者となり、建物に防音工事を行ったものと認められる。また、弁論の全趣旨によれば、借家人である一審原告が賃貸人の同意を得て、防音工事の補助事業者となり、賃借している建物に防音工事が行われた場合もあることが認められる。
したがって、借家人である一審原告らについては、当該防音工事完成時以降に右賃借建物の存在する右別紙第三「損害賠償額一覧表」の「居住地」欄記載の居住地に居住していたと認められる期間について慰藉料額を減額することとする。
(4) 右別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」の備考欄に「前居住者」との記載のある一審原告らは、弁論の全趣旨によれば、建物の前居住者が防音工事の補助事業者となって防音工事を行った後に、一審原告らが、右防音工事の施された建物に居住を開始したものと認められる。
したがって、右一審原告らについては、当該防音工事完成時以降に右建物の存在する右別紙第三「損害賠償額一覧表」の「居住地」欄記載の居住地に居住していたと認められる期間について慰藉料額を減額することとする。
なお、右別紙第九「一審原告ら別騒音防止対策等補助事業実績表(2個別表)」の備考欄に「建物の購入者」との記載のある一審原告糸満朝宏(同番号六四二)についても、弁論の全趣旨によれば、右前居住者と同様であり、建物の前所有者が防音工事の補助事業者となって防音工事を行った後に、一審原告が、右防音工事の施された建物を購入し右建物において居住を開始したものと認められるから、当該防音工事完成時以降に右建物の存在する右別紙第三「損害賠償額一覧表」の「居住地」欄記載の居住地に居住していたと認められる期間について慰藉料額を減額することとする。
(5) なお、住宅防音工事の助成による慰藉料額の減額を行うか否かの理由につき個別に説明を加えた方がよいと思われる場合については、右別紙第三「損害賠償額一覧表」の「記載要領」ないし「備考」欄に適宜判断の根拠を示すこととする。」
7 五一五頁一〇行目の次に改行して次のとおり加える。
「(7) 一審原告らは、根本的な騒音対策として、基地周辺の旋回飛行を実施しないこと、早朝夜間には飛行機を離発着させないこと等の音源対策が工夫されるべきであり、そのような対策を講じないまま単に防音工事を実施するという不十分な騒音対策の下では、住宅防音工事の実施を理由に慰藉料額を減額することは不当であると主張する。
しかしながら、前記第五「騒音対策」の二及び三において認定したとおり、住宅防音工事のほか、必ずしも十分とはいえないにしても一審被告あるいは米軍が音源対策や運航対策をも含めて本件飛行場周辺の騒音対策を実施していることが認められ、それにより被害が軽減しているとすれば、その分侵害行為による被害は存在しないのであるから、その程度に応じて慰藉料を減額するのは当然というべきである。したがって、一審原告らの右主張は採用できない。」
8 五一五頁一一行目の「4」を「(四)」と、五一六頁二行目の「W値八〇以上九〇未満の地域」を「W値七五以上九〇未満の地域(ただし、W値七五以上八〇未満の地域については、類型Ⅰの地域のみ。)」と、四行目の「照屋静雄、」を「照屋静雄。」と各改め、五行目の「番号は」の次の「、」を削り、九行目の「、損害賠償の対象区域外の」を「又は七五以上八〇未満の」と改め、末行の「乙一三八、」の次に「二一〇の2、二三四、」を加える。
9 五一七頁一〇行目の「七〇〇〇円」を「九〇〇〇円」と、末行の「5」を「(五)」と、「1」を「3(一)」と各改める。
10 五一八頁五行目の「六」を「5」と、七行目から八行目にかけての「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三」と、一〇行目の「後期六」を「後記5」と各改める。
11 五一九頁初行の「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三」と改め、七行目末尾の次に「ただし、居住開始日が各月の一日である場合は、当月一日から起算する。」を加え、八行目の「五」を「4」と改める。
12 五二〇頁初行の「(なお、」から六行目末尾までを削り、七行目の「六」を「5」と、同行及び八行目の各「別紙第二」をいずれも「本判決添付の別紙第三」と、一一行目の「本件口頭弁論終結の日」を「当審口頭弁論終結の日」と、末行の「W値八〇以上の地域」を「W値七五以上の地域(ただし、W値七五以上八〇未満の地域については類型Ⅰのみ)」と各改める。
13 五二一頁初行の「別紙第二」を「本判決添付の別紙第三」と、五行目、七行目及び九行目の各「平成四年一二月三日」をいずれも「平成一〇年一月一六日」と各改める。
14 五二二頁四行目から五行目にかけての「各不法行為の日の後である本件口頭弁論終結の日の翌日である平成四年一二月四日」を「各不法行為の日の後で当審口頭弁論終結の日の翌日である平成一〇年一月一七日」と、七行目の「なお、」から八行目の「原告らは、」までを「なお、一審原告らは、昭和四七年五月一五日から本件各訴状送達の日までの期間の損害額について、」と各改める。
第一一 民訴法二六〇条二項による申立てについて
一 一審被告の右申立てに関する主張事実(第二章の第三の四)は、当事者間に争いがない。
二 前記のとおり、一審原告大村文雄及び同安田喜美藏の一審被告に対する平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の各賠償請求は、いずれも当審において本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」中の「B期間賠償額」欄記載の金員に対する遅延損害金について請求の減縮がされたことにより、損害元金一七五万一八〇〇円及びうち金四八万八四〇〇円に対する昭和五七年三月一二日から、うち金一二六万三四〇〇円に対する平成一〇年一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を超える部分に付された仮執行宣言はその効力を失うことになる。
一審原告金城喬保の一審被告に対する平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の賠償請求は理由がないから、原判決中同一審原告の請求に係る部分に付された仮執行宣言はその効力を失うことになる。
一審原告山里盛夫の一審被告に対する平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の賠償請求は、当審において本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」中の同一審原告に対応する「B期間賠償額」欄記載の金員に対する遅延損害金について請求の減縮がされたことにより、仮執行のなされた時点においては損害元金二四八万四〇〇〇円及びうち金六五万八六〇〇円に対する昭和五八年三月一五日から、うち金一八二万五四〇〇円に対する平成一〇年一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を超える部分に付された仮執行宣言はその効力を失うことになる。
一審原告松田カメ(同番号六二五)の一審被告に対する平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の賠償請求は、損害元金二三三万円及びうち金四一万四四〇〇円に対する昭和五八年三月一五日から、うち金一九一万五六〇〇円に対する平成一〇年一月一七日から(当審において、遅延損害金の一部について請求を減縮)支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、原判決中同一審原告らの請求に係る右認容額を超える部分に付された仮執行宣言はその効力を失うことになる。
三 以上によれば、一審被告の右申立てについての判断は次のとおりとなる。
一審原告大村文雄及び同安田喜美藏が一審被告に対しそれぞれ請求できる損害元金一七五万一八〇〇円とうち金四八万八四〇〇円に対する昭和五七年三月一二日から強制執行の日である平成六年二月二四日までの遅延損害金二九万二〇三六円との合計額は二〇四万三八三六円であり、同一審原告らは、右の限度で強制執行をすることができるのであるから、それに要する執行手数料九五〇〇円についても一審被告から取り立てることができる(弁論の全趣旨)。そうすると、同一審原告らは、一審被告に対し、それぞれ仮執行の原状回復として、本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の同一審原告らに対応する「仮執行認容額」欄記載の二一二万一三七〇円から右二〇四万三八三六円を控除した七万七五三四円及びこれに対する強制執行の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。したがって、一審被告の右一審原告らに対する申立ては、右の限度で理由があり、その余は失当である。
一審原告金城喬保は、一審被告に対し、本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の右一審原告に対応する「仮執行認容額」欄及び「執行手数料」欄記載の各金員の合計額である六一万八二七二円及びこれに対する強制執行の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
一審原告山里盛夫が一審被告に対し請求できる損害元金二四八万四〇〇〇円とうち金六五万八六〇〇円に対する昭和五八年三月一五日から強制執行の日である平成六年二月二四日までの遅延損害金三六万〇六〇六円との合計額は二八四万四六〇六円であり、同一審原告は、右の限度で強制執行をすることができるのであるから、それに要する執行手数料九五〇〇円についても一審被告から取り立てることができる(弁論の全趣旨)。そうすると、同一審原告は、一審被告に対し、仮執行の原状回復として、本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の同一審原告に対応する「仮執行認容額」欄記載の二八七万二七八二円から右二八四万四六〇六円を控除した二万八一七六円及びこれに対する強制執行の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。したがって、一審被告の右一審原告に対する申立ては、右の限度で理由があり、その余は失当である。
一審原告松田カメ(同番号六二五)が一審被告に対し請求できる損害元金二三三万円とうち金四一万四四〇〇円に対する昭和五八年三月一五日から強制執行の日である平成六年二月二四日までの遅延損害金二二万六八九八円との合計額は二五五万六八九八円であり、同一審原告は、右の限度で強制執行をすることができるのであるから、それに相当して要する執行手数料九五〇〇円についても一審被告から取り立てることができる(弁論の全趣旨)。そうすると、同一審原告は、一審被告に対し、仮執行の原状回復として、本判決添付の別紙第四「仮執行金額一覧表」中の右一審原告に対応する「仮執行認容額」欄記載の三〇四万八一七五円から右二五五万六八九八円を控除した四九万一二七七円と、仮執行による損害賠償として、同表中の同一審原告に対応する「執行手数料」欄記載の一万一五〇〇円から右九五〇〇円を控除した二〇〇〇円との合計額四九万三二七七円及びこれに対する強制執行の日の翌日である平成六年二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。したがって、一審被告の同一審原告に対する申立ては、右の限度で理由があり、その余は失当である。
なお、一審被告のその余の一審原告らに対する申立ては、本案判決が変更されないことを解除条件とするものというべきであるから、これについては判断を示さない。
第一二 結論
一 以上の次第であるから、一審原告らの各請求に対する当裁判所の判断は、次のとおりとなる。
1 右各請求のうち一審原告らの損害賠償の請求(当審において、原審における将来の請求の一部は当然に現在の請求となった。)は、これを平成一〇年一月一六日までに生じた損害(慰藉料及び弁護士費用、以下同じ)の賠償請求と同月一七日以降に生ずる損害の賠償請求に区分し、まず前者については、本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」の「一審原告氏名」欄記載の各一審原告らにおいて、同各一審原告らに対応する「損害賠償額(合計)」欄記載の各金員及び第一次訴訟一審原告らの右表「A期間賠償額」欄記載の金員に対する昭和五七年三月一二日から、第二次訴訟一審原告らの右欄記載の金員に対する昭和五八年三月一五日から、第三次訴訟一審原告らの右欄記載の金員に対する昭和六一年一〇月一九日から、右各一審原告らの「B期間賠償額」欄記載の金員に対する平成一〇年一月一七日から(当審において、「B期間賠償額」欄記載の金員に対する遅延損害金について請求が減縮された)、いずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、また、一審原告牧野信子(亡牧野佐市訴訟承継人)、同喜屋武実(亡喜屋武忠保訴訟承継人)、同宮平ウシ(亡宮平謙牛訴訟承継人)、同大村文雄、同安田喜美藏、同伊禮信子(亡伊禮新一郎訴訟承継人)、同與儀勇(亡與儀ヨシ訴訟承継人)、同仲宗根久子(亡仲宗根朝次訴訟承継人)、同田崎和子(亡德元千惠子訴訟承継人)、同仲宗根正子(亡仲宗根林次訴訟承継人)及び同喜屋武光子(亡喜屋武勤訴訟承継人)において、原判決添付の別紙第二「損害賠償額一覧表」の同一審原告らもしくは被承継人らに対応する「損害賠償額(合計)」欄記載の各金員及び一審原告仲宗根正子及び同喜屋武光子以外のその余の右一審原告らの右表「A期間賠償額」欄記載の金員に対する昭和五七年三月一二日から、一審原告仲宗根正子及び同喜屋武光子の右欄記載の金員に対する昭和五八年三月一五日から、右各一審原告らの「B期間賠償額」欄記載の金員に対する平成一〇年一月一七日から(当審において、「B期間賠償額」欄記載の金員に対する遅延損害金について請求が減縮された)、いずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ一部理由があるからこれを認容し、右一審原告らのその余の請求及び右一審原告ら以外の一審原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
2 後者(平成一〇年一月一七日以降に生ずる損害の賠償請求)については、不適法であるからこれを却下すべきである。
3 右事件の請求のうち航空機の離着陸等の差止め及び航空機騒音の到達の差止めを求める一審原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。
二 そうすると、一審原告らと一審被告の本件各控訴に対する結論は次のとおりとなる。
1 原判決中平成四年一二月三日までに生じたとする損害の賠償請求について右判断と一部異なる部分は相当でなく、同月四日以降に生ずる損害の賠償請求について原判決は基本的には正当であるが、当審において将来の請求の一部が当然に現在の請求となったため、一部修正をしなければならないので、原判決の主文第一項、第三項及び第四項を、本判決主文第一項のとおり変更する。
2 原判決中一審原告金城喬保の損害の賠償請求を一部認容した部分は相当でないから、右部分を取り消し、同一審原告の平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の賠償請求を棄却する。
3 一審原告らのうち、本判決添付の別紙第三「損害賠償額一覧表」に記載のない一審原告ら並びに一審原告照屋たつ子(亡照屋千代訴訟承継人)、同國場信子(亡國場永德訴訟承継人)及び同松田カメ(同番号六二五)の平成一〇年一月一六日までに生じたとする損害の賠償請求に係る各控訴は、請求が認められないか又は当審における認容額が原判決の認容額を超えないため、理由がないからいずれも棄却する。
4 一審原告らの航空機の離着陸等の差止め及び航空機騒音の到達の差止めを求める請求に対する原判決は正当であり、これらに関する一審原告らの各控訴は理由がないからいずれも棄却する。
5 平成六年(ネ)第一六号事件控訴人兼同年(ネ)第一七号事件被控訴人である一審原告ら(本判決添付の別紙第一「当事者目録」記載の各一審原告に対応する備考欄に「Ⅰ」と表示した一審原告ら)のうち、右一審原告照屋たつ子(亡照屋千代訴訟承継人)、同國場信子(亡國場永德訴訟承継人)、同金城喬保及び同松田カメ(同番号六二五)以外のその余の一審原告ら(当審の請求認容額が原判決の認容額と同額以上の額となる一審原告ら)に対する一審被告の控訴は理由がないからいずれも棄却する。
三 一審被告の一審原告金城喬保に対する民訴法二六〇条二項の申立ては、理由があるからこれを認容し、一審原告大村文雄、同安田喜美藏、同山里盛夫及び同松田カメ(同番号六二五)に対する右申立ては主文第七項の1の限度で理由があるからこれを認容し、その余の申立ては理由がないからこれを棄却する。一審被告のその余の一審原告らに対する右申立てについては、前記のとおり判断を示さない。
四 訴訟費用の負担については、民訴法六七条、六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言については、同法三一〇条を各適用し、一審被告申立ての仮執行免脱宣言は相当でないので付さないこととする。ただし、一審原告らの右仮執行によって一審被告の行政事務の一部に遅滞等の不測の支障が生じ、ひいては国民に迷惑がかかることを避けるため、右仮執行について執行開始の時期を定めることとし、一審被告の民訴法二六〇条二項の申立てに係る一審原告大村文雄、同安田喜美藏、同金城喬保、同山里盛夫及び同松田カメ(同番号六二五)に対する仮執行についても右との均衡上同様に執行開始の時期を定めることとする。
(裁判長裁判官岩谷憲一 裁判官角隆博 裁判官吉村典晃)
別紙<省略>